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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「……?」



顔から手を離す。
呼び掛けに応じた声に、少女が目にしたのは見知らぬ白いマント姿の青年。



「おにいちゃん、だぁれ?」

「………」

「いま、もういいよっていったの、おにいちゃん?」

「…そうだよ。って言ったら、どうする?」



目深に被った白いフードに、青年の顔は陰っている。
しかし低い背丈で見上げる少女には、人懐っこそうな団栗眼がはっきりと見えた。
優しげな印象の眉を下げ、見下ろす青年は今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。



「君が呼び続けるなら、僕が応え続けるよ。だから…」

「………」

「だから…。…その遊び、僕も一緒にしていいかな」

「…みなみは、ひぃちゃんたちとあそんでたの」

「うん。知ってるよ」

「こーくんとあおちゃんも、ひとりぼっちでいるから…さみしいところに、いるから…」

「うん。わかってる」

「…おかあさん、も」

「っ…うん」



拳を握り、瞳を閉じて。
俯いて頷く青年の体が、微かに震える。
じっとその震えを見つめた少女は、小さな手を伸ばした。



「みーつけた」



ほんのりと手に体温。
はっと瞬いた団栗眼に映る、少女の笑顔。
はにかみながら、きゅっと小さな手で拳を握り締めてくる。



「おにいちゃんは、みなみがつかまえたから。みなみといっしょね」

「…いいの、?」

「? なにが?」

「僕は…君の友人でも家族でもないのに…」

「ともだちなんて、いつでもなれるよ」



不思議そうに青年を見上げながら、なんでもないことのように少女は云う。



「みなみね、しいなみなみっていうの。おにいちゃん、おなまえは?」

「……ダグ」

「だぐ?…じゃあ、だぐくん」



恐る恐る拳を解く。
そっと小さな指に己の指を絡ませれば、確かに握り返してくる。



「ほら。これでみなみとだぐくんは、おともだち」

「………(…あたたかい)」



確かな体温。
生きている命。
ずっと忘れていたその感覚は、青年の目尻を熱くさせた。

きっと行き場を求めて彷徨う中で、焦がれ続けていたものだ。

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