第82章 誰が為に鐘は鳴る
───ただ、守りたかっただけなんだ
初めて、聖戦とは無関係の少女に好意を抱いた
最初は哀れみに似たもので見ていたのかもしれない
それでも傍にいたいと、守りたいと思ったのは、本当だったんだ
「…ぞの少女はもうこの世にはいない…求めても、答えが返ってぐることはない。諦めろ」
諦める?
…そんな感情、とっくの昔に失った
彼女はもうこの世にいない
そんなことずっと前からわかっている
「じゃあ何故ごの世に縋る。此処にお前の求めるべきものはない」
縋ってなんかいない
でも離れられないんだ
憎悪が、後から後から溢れ出て
全身から血のように垂れ流し続けている
それでも止まらない
「ぞれは誰に対しての憎悪だ」
誰に対してだろう…コレットを殺したセルジュ?
ガラス玉のような目をしてコレットを滅したラビ?
こんな世界を造り上げた千年伯爵?
…わからない
もうずっとこんな形でこの世を彷徨ってきた
リーバー班長の言っていた、本来の僕がなんなのか
そもそも自分は本当にダグという人間だったのか
それすらも、もう
「…ぞれが彷徨う行き場を無くした魂の末路だ。最後には全てのものに忘れ去られ、己自身も忘れでいぐ。ぞのままでは、お前は生きでも死んでもいない存在となるぞ」
でも…もう、わからないんだ
ここまで膨らんだ怨みを今更、綺麗に失くすことなんてできない
何もかも忘れて魂の在るべき所へ消えるだなんて
コレットにそれを望みはしても、僕自身は
行きたい所も、行くべき所も、もうわからないんだ
「……もー、いーかーい」
声がした。
小さな小さな、拙い少女の声。
「もぉ、いーかい」
靄が掛かった白色の世界。
其処で一人、身を屈めて両手で顔を隠している和服の少女。
何度も何度も呼び掛ける声に、応える者はいない。
…その声を拾ったのは、本当だった
「もぉ、いーかーぃ…」
寂しい声で
哀しい声で
泣きそうな声で
拙く呼び続ける、儚い願い
自分に向けられたものじゃないことはわかっている
それでも、自分と同じ亡き魂へと縋るその声に
「───…もう、いいよ」
応えたかったんだ