第82章 誰が為に鐘は鳴る
「本当か?」
「はい」
「お、俺がわかるか」
「リーバー、班長です」
「っ良かった…ッ」
心底ほっと安堵の笑みを浮かべるリーバーに、南もまた申し訳無さそうに微かな笑みを返した。
「ごめんなさい…ぜんぶ、聞こえてたのに。頭が上手く回らなくて…なんだか、意識が霞がかってたみたいな…」
「いや、いいんだ。気にすることは───…ぜんぶ?」
「はい。所々、声が抜けるような感じはしたけど、大方…全部」
「全部、か?」
「? はい」
「………(俺、変なこと言ってないよな)」
相手が子供の南だと油断して、色々口を滑らしてしまったように思う。
責めてはいないが、きついことも言ってしまった。
無言で焦るリーバーに南が首を傾げる中、二人の意識を向けたのは禍々しい空気だった。
「うあ、あぁああ、ああ!」
「「!」」
見れば、蜘蛛の巣のように張り巡らされていた影が渦を巻いていた。
掻き毟るように顔を両手で覆うダグを中心に、竜巻のような影が柱を幾つも作り上げていく。
おうおうと追い立てる風の音が、人の泣き声のようにも聞こえた。
「…して…ッどう、して…!」
「ダグ!?どうしたんだ!」
「どうして皆、そんな顔で笑えるんだ…!」
「顔…っ?」
「気を付げろリーバー!言っだだろう、あいづは呪うごとが存在理由!綺麗事は聞がないぞ…!」
「綺麗事なんて言った覚えはねぇぞ!?」
「ぞれでもあいづから見れば、お前は充分眩じい人間だ!女をじっがり捕まえでいろ!」
「!? 何を…ッ」
「あいづはわだじが連れて来たものだ。わだじが抑える!」
リーバーの腹にずっと収まっていた亡霊が、勢い良く飛び出した。
亡霊の腐った腕がダグへと伸びる。
その手が触れようとすると、竜巻が呻り向きを変えた。
「く…ッ!」
嵐のような風圧と亡霊に弾き飛ばされた勢いで、リーバーの体が後方に飛ぶ。
それでも放すまいと強く南を抱きしめた。
叫ぶダグを中心に広がる強い光。
痛い程の眩い光に、まともに目も開けてはいられない。
そんな自身の腕の中で、光へと手を差し出す南の姿を垣間見て。
そして世界は真っ白に塗り潰された。