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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



憎み祟り殺そうとする亡霊にまで、愛を向けることができる男だ。
そしてその心で、亡霊の怨みを包み込むことができた男だ。



「リーバー…ぞれは…」

「だが、あの人だけじゃない。今生きている部下達や、失った仲間達の為にも、やらなきゃならないことが山程ある。エクソシストのあいつらだって、俺より年下ばっかで。腕っ節は一丁前の癖に足りない所も色々あるんだよ。誰かが支えてやらねぇと」



愚痴のように言いながらも、僅かにリーバーの顔に笑みが浮かぶ。
困ったような、そんな優しい笑みだった。



「なんで…貴方は、そんなに頑張るんですか」



上司と部下と仲間と友と。
影として、人知れず汚れ役をも背負い受けようとするリーバーに、気付けばダグは問うていた。

微かに震える拳を握る。
そうして一心に問い掛けるダグに、リーバーは静かに口を開いた。



「俺達は死に方を選べない。だから生きてる間だけでも踏ん張っていたいんだよ」



聖戦で死んだ者は、塵一つ残さず抹消される。
歴史にも記録にも残らない、"死"そのものさえ消されてしまう。

それが哀しいのではない。
それが虚しい訳でもない。
ただ命を灯しているこの時だけは、この時こそは、できることがあるのなら迷わず手を伸ばしていたいだけだ。



「…っ」



ざわりと、ダグの体から四方八方に伸びていた影が揺らいだ。



「───!」



同時に、影の中に半ば埋まっていたリーバーの指先が触れた。
柔らかみのある、確かに人としての体の部位に。
咄嗟に掴んだそれを手繰り寄せる。
揺らぐ影の渦の中からずるりと姿を現したのは、和服姿の少女ではなかった。



「南…!」



くたびれた白衣姿の、見慣れた成人姿の南だった。
雁字搦めに影に絡み付かれて瞳は瞑ったままだったが、その体は確かに温かい。
命を灯している証拠だ。



「南!おいッ聞こえてるか!?」



抱いた体に向かって呼び掛ければ、ふるりと微かに睫毛が揺れる。
ゆっくりと開く瞼に、東洋人独特の暗い瞳が見える。
リーバーの顔をそこに映して、微かに口角を緩めた。



「…はい。聞こえて、ます…ちゃんと」



拙い子供の声ではない。
途切れながらも頷いた、確かな南自身の声で。

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