第82章 誰が為に鐘は鳴る
「だからって…なんで、お前が…ッお前は、そんな奴じゃないだろ…!」
「落ち着げ、リーバー。こいづもわだじと同じだ。忘れ去られだ魂の寄せ集め。ダグという男一人の魂じゃない」
「…そうだね。でも、僕も"ここ"にある憎悪の塊の一部だ。君の教団への怒りと憎しみも、一緒に味わってきた魂の一つだよ」
戸惑うリーバーに忠告する亡霊に、静かにダグの目が体を纏う影のような黒い波に向く。
そこに集う者達の魂の中に、確かにダグも存在するのだ。
元は亡霊と一つに在った者として。
「…わだじは…もう、教団に怒りをぶつけるごとは止めだ…コムイ室長が、私達の魂を背負っで生きてぐれる」
「それは負の実験で死んだ皆の名前を覚えていたから?それだけで救いはあると思うのか」
「室長の決意は本物だっだッ」
「人の心なんてあやふやなものだ。一番信用ならないものだよ」
「お前が、それを言うのか…ダグ。あんなに人との絆を重んじていたお前が…」
リーバーの声の端に震えが満ちる。
あの誠実で真っ直ぐな瞳を持った彼の言葉とは思えない。
例え複数の憎悪の魂に呑まれているからと言って、何故彼の姿を成して現れたのか。
それだけダグの怨念が強いということなのか。
「ラビだって、お前の為に涙を流して…」
「知ってますか?リーバー班長」
静かにリーバーの声を遮り、濁るダグの目が微かに細まる。
「あの時、AKUMAと成ったコレットにとどめを刺した、涙に濡れたラビの瞳」
薄らと浮かべたのは、消えゆくような笑顔だった。
「ガラス玉と同じだったんです」