第82章 誰が為に鐘は鳴る
黒の教団には様々な目的意識を持ち、働いている者達がいる。
戦闘組織であるが故に、自ら希望して働く者の中には世界の為、平和の為、と正義感に固執する者も多い。
ダグも、そんな青年だった。
しかし同時にエクソシストも他団員も一般人も関係なく、人を人として慈しみ向き合うことができる誠実な性格の持ち主。
故に最初こそ偽善面の多かったラビとは確執もあったが、互いの間に信頼が生まれるとその壁が崩れるのは早かった。
ラビが教団で最初に心を開いた女性が南ならば、最初に歩み寄った男性はダグだろう。
18歳という若さながら死線を幾度も潜り抜け、ファインダーとしても頼りにされていた。
人柄のお陰で仲間にも恵まれ、エクソシストとも切磋琢磨し、自分の望む道を一歩ずつ確かに歩んでいた。
だからこそ、大きく踏み外した道はダグを崩壊へと招いたのだ。
アレンが教団に入団して間もない頃、ラビはダグと二度目の任務を共にした。
フランス、地はパリ───エリゼと呼ばれる町での任務だった。
"町外れの森の奥にある払暁の女神に祈れば、死んだ人間が奇跡的に蘇る"
そう謳われる謎の女神像と、増え続ける行方不明者。
きな臭い出来事だと睨んだ教団が目をつけた任務だった。
其処でラビとブックマン、そしてダグが出会ったのが、町一番の財を持つ男ジェローム・ドロセール。
その息子セルジュと、ただ一人屋敷に残り続けメイドとして働く幼き少女、コレットだった───
「嬉しいです、リーバー班長。僕のこと憶えていてくれたんですね」
「本当に…ダグ、なのか…?」
「はい」
「いや、そんなはずは…お前は、ラビに…っ」
動揺を隠せないリーバーとは真逆に、ダグと認めた青年は冷静だった。
一時足りとも目を逸らすことなく、真正面からリーバーの目を見据える。
それは生前のダグと変わらぬ姿で。
「はい。僕はラビに、殺された」
淡々と真実を告げる声に、感情は見えない。