第82章 誰が為に鐘は鳴る
「…だから呼ぶのか」
何度も、何度も。
何かに刻みつける代わりに、脳裏に残す為に。
同じだと悟れば、何も言えなくなってしまう。
口を結ぶリーバーは、しかし耳を疑う言葉を聞いた。
「おかあさん、おばけといっしょにいるの」
ぽつり。
囁くように呟いた南の目は、じっと何もない宙を見つめていた。
「きっと、ねむってるだけ」
AKUMAを創り出す方法は、唯一ひとつだけ。
愛で結び付いた者同士でしか作れない。
「みなみ、みたの。おばけが、おかあさんのからだにもぐりこむところ。おかあさんと、ひとつになったところ」
死んだ者は生き返らない。
その絶対の理を反する唯一の行いが、千年伯爵による"AKUMA製造"。
〝機械〟と〝魂〟と〝悲劇〟によって創り出される。
伯爵の生み出した魔導式ボディがあれば、芯に愛する者同士であれば死者の世界から魂を呼び戻すことができるのだ。
しかし死とは何者も抗えない真理そのもの。
その禁忌を犯した者には報いが与えられる。
千年伯爵に唆され、この世に愛する者の亡き魂を呼び寄せたが最後。
その亡き魂は魔導式ボディに縛り付けられ、伯爵の思うがままの殺人兵器───AKUMAと化してしまう。
伯爵のAKUMAに下す最初の命は、一律に同じ。
"愛する者をその手で殺し、死体(かわ)を被りナサイ♡"
心は反しても伯爵の命令には抗えない。
AKUMAと化した魂は、呼び寄せた愛する者の生きる魂を喰らい、そして肉体をも喰らうのだ。
「だから、よべば、おきてくれる。きっと、みなみのこと、おもいだしてくれる」
「…まさか…」
母は父を失い、哀しみに暮れていたと少女は言った。
リーバーの脳裏に嫌な思考が浮かぶ。
それはもしや、悲劇に沈んだ母が父を呼び起こし生まれたAKUMAではないのか。
「…駄目だ」
「?」
「呼んだら駄目だ。それはAKUMAだ。お前の母親じゃない」
外見は母親の姿をしていても、中身は千年伯爵の命に忠実なダークマターの塊。
その大本は母が切に呼んだ父の魂かもしれないが、伯爵に命じられれば実の娘でさえも躊躇なく殺すだろう。
だからこそAKUMAは"兵器"と呼ばれるのだ。