第82章 誰が為に鐘は鳴る
「お前の言うお化けどはなんだ」
「…おばけは、おばけだよ」
リーバーには警戒心を消したが、亡霊相手ではまだ恐怖は残るのだろう。
びくびくと声の出処に目を向けながら、それでも南は応えた。
「おほしさまの、おばけ」
「お星様?」
「おばけはみんな、かおについてるの。おほしさま」
ここ、と小さな手が己の額を指差す。
少女が何を言わんとしているのか、そこで初めてリーバーは全てを理解した。
「お星様って…AKUMAのペンタクルのことか…!」
AKUMAの体には必ずどこかに記されている、シンボルとも言える星型模様。
何故南の親も友もお化けに喰われたのか、それは少女の言葉通りだったのだ。
寂しさに突け込まれAKUMAに食われた。
即ちそれは"死"を意味する。
「りーばーさんも、おばけしってるの?」
「ああ」
日本は鎖国により閉鎖された謎の国。
故に内部の情報などはほとんど無いに等しかったが、ラビ達がクロスを追うまま江戸に赴いたことで、その内情は明らかになった。
日本はノアの筆頭である千年伯爵の本拠地。
その中でも江戸はAKUMAの巣窟と化していた。
(南の幼少期がどうだったかはわからないが、あれだけのAKUMAが蔓延っていたんだ…恐らくその時代にも、他国よりAKUMAの存在は身近にあったはず)
そんな土地で、幼い少女が生きていけたことだけでも奇跡だろう。
「(そんな世界で南は生きていたのか)………」
「りーばーさん…?」
「…そりゃ思い出したくもないよな…」
周りが南の国のことを聞く度に、憶えていないと笑っていた。
あれは本心だったのか、それとも───
彼女の儚い笑みに思いを馳せれば、胸が締め付けられる。
眉を寄せて見下ろすリーバーに、じっと逸らすことなく返される暗い瞳。
「…みなみは、おぼえてるよ。わすれないよ。おかあさんも、おかあさんをたべた、おばけのことも」
だって、と少女の声が僅かに大きくなる。
「わすれたら、はなれていっちゃう。おかあさんが、みなみのなかから、きえちゃうから」
その感情には憶えがある。
リーバーもまた、忘れない為にと仲間の死を柱に刻んで脳裏に残していた。
同じだった。