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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る








"…心だけで泣くな、南"






あれは今と同じに、幼い体で涙を耐える自分に向けて、投げ掛けられたような。
強張って固まっていた心を、絆されたような。



「…ぁ…」



声が震える。
口が戦慄く。
ぼろりと、大粒の涙が目元から滑り落ちた。



「ひ…んっ」

「…南」

「ちが…っこれ、ないてな…っ」

「ああ」



そっと小さな机をずらす。
潜り込んでいた幼い体を前に、リーバーは一歩踏み出した。

ふ、と南の体に被さる影。
それはふわりと軽くも呆気なく、少女の体を包み込んだ。



「こうしていれば見えないだろ?」



震える小さな体を包んだのは、くたびれた白衣。
脱いだそれを南に被せるように包み込んで、リーバーはそっと呼び掛けた。



「これならお化けにも見つからない。大丈夫だ」

「…っ」

「誰にも見せない」



少女の暗い瞳が丸くなる。
その言葉も憶えがあった。
しかし先程とは違う声だったように思う。






"誰にも見せねぇから。我慢するくらいなら、ここで泣けよ"






普段は明るい茶化すような声を、低く静めて。
落ち着くまで泣いたらいいと、広い胸を貸してくれた。

あれは誰だったのか。

思い出せない。
なのに何故か、不思議と心が熱くなる。
二人の面影を記憶の中で辿れば、熱く何かが込み上げるのに、不思議と哮りは治まっていく。



「…ふ…ぇっ」



殺して零す涙ではない。
子供ながらにぼろぼろと涙を零し、微かな嗚咽を吐く。
そんな南の小さな背中を、リーバーは白衣越しにそっと擦り続けた。

ひとつ、ふたつにみっつに、よっつ
いつつ、むっつにななつに、やっつ
ここのつ、とお

畳に落ちた涙の雫が、ぱたりぱたりと跡を残していく。
それは少女の声無き声のようだった。

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