第82章 誰が為に鐘は鳴る
「───…すん…」
背中を擦り続けていれば、やがては少女の泣き声も小さく萎んでいく。
ようやく落ち着きを見せると、小さな体の震えも収まっていた。
「…んで…」
「ん?」
「…なんで…みなみのこと、しってる、の…?」
静寂の中、先に口を開いたのは南だった。
先程と同じ問い掛けだったが、先程まであった恐怖は見られない。
おずおずと泣き腫らした目で見上げてくる南に、リーバーは当然のように笑った。
「俺の大切な人だからだよ」
「たい…せつ?」
「ああ。失くしたくない人だ。…南のお母さんや、友達なんかもそうだろ?」
「……なくしてないよ」
ぽつりと落とす言葉と同じに、下がる南の顔。
「いる、から。ひぃちゃんもこーくんもあおちゃんも。だからよぶの」
「…いるって、三人は何処にいるんだ?」
「くらくてさむいところ。さみしいって、ないてる」
聞き覚えのある言葉だった。
嵐の中、タップ達は其処にいるからと濁った瞳で溢した南の言葉が、リーバーの頭を過ぎる。
「だから、よぶの」
「…南…」
「よんで、あげなくちゃ…」
「本当に、彼らは其処にいるのか?お前の問い掛けに、応えてくれてるのか?」
「っよんでたら、くるもん…いつか、ぜったい」
「南…それは、」
「さみしいってないてるからッひとり、できな…っ」
振り被りリーバーの言葉を遮る。
聞きたくないと跳ね返しているかのような、そんな弱々しい主張。
それは嵐の中で見た南と同じ。
仲間の死を自分の所為だと背負い、抗おうとしている姿だった。
「死は死だ。何者にも変えられはじない」
静かに呟いた亡霊の声は、南には聞こえていないようだった。
リーバーの耳にだけ静かに通る、この世で変えようのない絶対の理。