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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「………」

「………」



沈黙。
くりりと丸い幼子独特の両目が、リーバーを見上げてくる。
どう切り出すべきか、リーバーが二の足を踏んでいると、ふいと視線は逸らされた。



「ひぃちゃん…っ」



たた、と小さな足がリーバーから離れるように小走りに駆ける。
向かった先は、障子の付いた丸い窓の先。



「こーくん?あおちゃんっ」



開けた障子の先は真っ暗闇。
そこへ身を乗り出して呼び掛ける南は、誰かを捜しているらしい。



「もぉいいかーぃっ」



どうやらその呼び掛けは、彼らに向けて言っていたらしい。



「もーいーかーいッ」



しかし何度呼び掛けても、暗い闇の向こうからは何も返ってこない。
この場にいるのは、南だけなのだろうか。



「あー…と。南?」



小さな背中に、そうと呼び掛ける。
ぴくりと、その肩が微かに反応を示した。



「やっぱり、南、だよな?」



再度呼び掛ける。
幼き耳にも伝わるようにと、ほとんど使用したことのない島国の言語で。
すると今度こそ伝わったのか、南はゆっくりと振り返った。
その目は確かにリーバーへと向いている。

似ている、ではない。
確かに彼女は、コムイの薬で幼児化された時の南だった。
髪型や服装は違うものの、確かに同一人物だ。
しかし紡ぐ言葉は日本語で、舌足らずさに拙さも感じる。
見た目と等しく中身も幼い様子の南は、じっとリーバーを見上げながら、やがて小さな口を動かした。



「おじさん、だれ」

「おじ…!」



がつん、と頭を殴られたような衝撃。
若者である気はないが、そこまで歳を重ねている気もない。



「せめておにいさんにしてくれないか…」

「………」



がくりと肩を落として苦笑混じりに呼び掛けるリーバーに対し、南は警戒するように一歩後退った。



「なんでみなみのなまえ、しってるの?」

「知ってるも何も、お前は俺の部下だろ?」

「…?」

「部下、というか、仲間、というか。憶えてないのか?俺だ、リーバーだ。リーバー・ウェンハム」

「っ」



リーバーが一歩踏み出せば、小さな足は一歩踏み下がる。
幼き顔が強張った。

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