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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る








「ぞれは幻だ。現実じゃない。今の自分を思い出ぜ」






ごぼり、ぐぷり



聞き覚えのある濁った呼吸音。
その合間に囁かれる声は、小さなものなのに脳内に響き渡るようにも感じられた。






「自分自身をわずれるな。ぞれは幻。ただの理想だ」






理想とは何か。
疑問を持つ前に、リーバーの世界が歪んだ。
まるで球体に映る世界のように。
足場が曲線を描いて歪み、周りに立つ仲間達の体のが不規則に伸び縮みする。

ぐにゃりと歪む奇妙な世界で、ただ一つだけ真の姿を保っているものがあった。



「わずれるな、リーバー」

「…お前…」



それはリーバーの腹から顔を覗かせる、亡霊の少女。



「わだじのことをわずれでないな」

「あ、ああ……そうだ、お前、は…確か、ゾンビウイルスの…」

「ぞうだ」

「じゃあ此処は…?」

「ごれは幻だ。あの女が願う世界」

「女?」



はっとする。
朧気に靄がかかっていた意識が晴れるように、それは唐突にリーバーの脳裏に浮かんだ。



「そうだ、南…!俺はあいつを助けようと…!」

「思い出じたか」

「南はっ?此処は何処だ!」

「言っだだろう、此処はあの女の世界だ。リーバーが今まで感じでいた世界は全で、あの女の願望」

「願望?…そんなはずは…だってあれは、確かに過去にあったことだ。俺の記憶にもある…っ」



ジジがアジア支部へと異動となり、同時に南とタップとジョニーが黒の教団へと入団した。
そんな間もない頃の出来事だ。
確かにこれは、現実に在ったこと。



「ならばごれは女の記憶だ。願いは過去に向いで、女はぞこに戻りたがっでいる」

「なんで…」



何故過去に、という思いはリーバーの中からすぐに消え去った。
南が望む世界が何故此処にあるのか。
それは考えずとも理解できたから。



「……此処には皆、いるからな…」



タップもマービンもハスキンも、科学班の仲間達は誰一人欠けていない。
南の失くした者達が、この世界では変わらない笑顔で笑っているのだから。



「だがぞれは幻だ。現実じゃない」



ぐぷりと吐き出す亡霊の言葉が、リーバーの胸に突き刺さる。

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