第82章 誰が為に鐘は鳴る
「なぁ南」
「ん?」
「リーバー班長ってあんな優しかったっけか…?」
「それオレも思った。なんだか毒気がないっていうか…言葉だけじゃなく、態度が優しい感じする」
「ふふ。そうだね」
こそこそと南に耳打ちしてくるタップとジョニーは、リーバー相手に不思議顔。
南自身も感じていることだからこそ否定はせずに笑顔を返した。
「何かあったのかな?」
「班長が変わる何かか?」
「…私は、変わってないと思うなぁ」
「え?」
「そぉかー?」
「うん」
変わったのではなく、気付いただけだ。
元からリーバーが持っていた人柄に。
「私、コムイ室長が言ってたこと少しわかる気がする」
「なんだそれ?」
「あー、確か前に病棟で会った時に……何言ったっけ」
ぽかんと見合うタップとジョニーにくすくすと笑いながら、南は二人の背を押した。
「思い出せた時でいいよ。それよりほら、折角退院したんだし」
「お。なんだ南、祝ってくれんのか?」
「まじっ?やっ」
「書類の束がたっぷり待ってるよ」
「「そっちかよ」」
息ぴったりにツッコむ二人の姿に、南だけでなく周りの空気も明るくなる。
「南の奴、嬉しそうだなぁ」
「あの二人を一番に待ってたのは南だからな」
「これで皆元気になんだろ。よかったっすね、班長」
「…ああ、そうだな」
いつの間にかムードメーカーとして輪の中心にいたタップ。
病弱で倒れることが多いジョニーだが、それだけ努力家であることも周りは知っている。
リナリーのような科学班のアイドルとは程遠い存在の南は、だからこそ性別に関係なく認められるようになった。
三人三様、そして誰もが無くてはならない存在だ。
(あいつらなら、やっていけそうだな)
何かと離職率の高い科学班だが、だからこそ残った者はそこらの団員より根気強く腕を磨くようになる。
いずれは三人もそんな研究者になるだろうと、自然とリーバーは表情を緩ませた。
将来どんな姿を見せてくれるのか。
弾む胸は、きっと気の所為ではない。
「───わずれるな」
ごぼりと、不快な音が耳に突き刺さった。