第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ふーん……で、誰なんだ?それ」
「え。っと…そのうちわかりますよ」
「なんだ、教えてくれないのか」
「畏れ多いと言うか…私が一人前になれたら教えますっ」
「ほーお、一人前になれる自信があるってことだな」
「! そ、それは…違…」
「なれねぇのか?」
「い、いえっそれも違…っな、あ、なってみせます…!」
わたわたと焦り返答する南の姿に、リーバーは軽く噴き出した。
一人前に科学班として胸を張れる日がくるのか定かではないが、ベッドの中で慌てふためく南の姿からは、到底期待は湧かない。
湧かないが、心に広がるは感覚は充足感に似ていた。
「ま、期待してるよ」
ぽん、と布団を軽めに叩いて腰を上げる。
ゆっくり休めよと言葉を残せば、笑われたことに関してか再び布団を口元まで引き上げた南の顔は、ほんのりと赤みを帯びていた。
努力家な南のことだ、タップやジョニーよりすぐ仕事に復帰するだろう。
先程のように慌てながらも仕事に励む姿を拝めるのならば、それも悪くはないと思った。
「───科学班第一班、平団員タップ・ドップ!只今戻りました!」
「なんだ、その戦場から生還しました的な敬礼は」
「ただの生活習慣病だろー」
「やだなぁカロリーオフ地獄から生還したって意味っスよ!」
「ありゃあジェリーお墨付きの病院食だぞ」
「そうだぜ、美味くて太らないって特に女性に評判なんだからな」
「オレ、多少体に毒じゃないと美味さ感じないみたいで」
「体の前に頭が病だろそれ!」
ドッとタップを中心に笑い声が上がる。
「あんなこと言って大丈夫か?タップの奴」
「仕事ができりゃそれでいい。次は俺に医務室に放り込まれないようにしろよ」
「はいっス!」
「それとジョニー」
「は、ハイ!今度は倒れないよう気を」
「倒れるのは構わん。先輩だってごろごろ倒れてんだろ。その前に、無理だと思ったらなるべく誰かを頼るようにしろ。上の奴だって気にせず使え、俺が許すから」
「は…はい」
暫くして医療病棟から無事退院できたタップとジョニー。
タップを見習ったつもりではないだろうが潔く敬礼するジョニーに、向けたリーバーの言葉は温かいものだった。