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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



ジジはリーバーと南が似ていると言った。
周りを頼らず一人で何をもこなそうとする姿勢が、同じだと。



(…違うな)



確かに似ていると思った。
ジジに指摘されて気付かされたことだが、改めて見直した自身の姿は南と重なった。
そして決定的に違うところにも気付かされたのだ。



「お前のそういう相手を思いやる心は、立派だよ。教団には必要なもんだ」



ベッドの横に腰を掛けて背を向ける。
リーバーの顔は南には見えない。



「心底他人を思いやる気持ちは、簡単なようで中々持てないもんだ。だからって無理していい理由にはならないが、大事にしろよ」



表面上なら誰でも取り繕える。
綺麗事なら誰でも口にできる。
しかし南の心はそうではない。
赤の他人を真っ直ぐに思う心は、簡単なようで難しい。



(俺が我武者羅に走ってたのは、自分の為だけだ。こいつが我武者羅に走るのは、誰かの為だ)



彼女を忘れたいが為に我を忘れて仕事に取り組んだ。
それこそ自分の世界しか回っておらず、自分の世界しか見ていなかった。
南へと溢していた己の愚痴が、リーバー自身に突き刺さる。
ただの傲慢だったのは己の方だ。



(…比べられねぇな)



同じではない。
同じにできるはずもない。
立っている根本の思いが違うのだから。

肩を下げ自嘲する。
一年にも満たない新人の南の姿勢に、自身を洗い直されたような気がした。



「…見本となる人が、いますから」



流れた沈黙を静かに止めたのは、遠慮がちに紡ぐ南の声だった。



「誰かの、何かの為にって、いつも踏ん張っている人を見てますから。…そんなふうに見えたのなら…嬉しい、です、けど…」

「へぇ、誰だ?ハスキンか」



興味が湧いて振り返れば、布団を口元まで引き上げた南の顔が見えた。
覗く目が泳ぎ、違う答えだと物語っている。



「違うのか。じゃあ誰だよロブか?」

「い、言わなきゃ駄目ですか?」

「なんだ、それくらいいだろ?褒めてるんだし」



こうして話を交えれば、今まで雑談らしい雑談を南としたことはなかったことに気付く。
言葉を交えれば、濁しながらもきちんと会話のボールを返してくる。
その空気は、案外悪くない。

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