第82章 誰が為に鐘は鳴る
「───これでいいだろ」
「ぁ、ありがとうございます…」
迷うことなくリーバーが運び込んだ南の自室に着くと、思いの外優しい動作でベッドに下ろされた。
「明日は有給にしとくから休め。どうせ来たってハスキン達が煩いだろうしな」
「はい」
「コムイ室長には俺から報告しとく」
「はい」
「服は自分で着替えろよ」
「はい…って班長!そ、そこは自分が…!」
「ん?」
テキパキと支持しながら迷わず収納棚を開くリーバーに、流石の南もベッドの上から慌てて声を上げた。
いくら世話をしてくれると言っても、異性の、それも上司に私物が詰まった箪笥内を見られる訳にはいかない。
「ああ、悪い。癖で」
「癖、ですか」
「コムイ室長も他の科学班の奴らも、仕事以外はてんで自分の世話しない奴多いからな」
「そう、なんですか…」
「とりあえず白衣だけ脱いどけ。ほら」
「は、はい…」
もたつく南の手からくたびれた白衣を受け取り、手近な衣類掛けに片付ける。
そんなリーバーの姿を口元まで布団を引き上げながら、南はじっと物珍しそうに観察していた。
「…リーバー班長」
「なんだ?」
「よく…私の部屋、知ってましたね」
「部下の部屋くらい把握してて当然だろ。無断欠勤かと思えば室内で倒れてることだってザラだからな」
「…確かに」
過酷な職場だと理解しているからこそ、そこへの配慮は欠けていない。
口は悪いし態度も厳しいが、こうしてよくよく見ればリーバーの配慮は至る所で見られた。
(世話焼き、なんだろうな…きっと)
「…なんだ、じっと見て。俺の顔に何かついてるか」
「ぃ、いえっ…あの、班長。このことは婦長さんには…」
「わかってる、言わねぇよ。知られたくねぇんだろ」
「ごめんなさい…子供みたいで」
「ジョニーとタップの為だろ」
「え?」
申し訳なくも念押しすれば、さらりとリーバーが指摘したのは南の本心だった。
「二人に知られたくなくて、医務室を嫌がったんだろ。心配させないように」
「…なんで…」
「それくらい、お前見てりゃわかる」