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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る












そう思っていたのは、最初の二日間だけだった。










(ぉ…終わらない…)



タップとジョニー二人分の仕事に加え自身の仕事も捌いていると、どう足掻いても時間が足りない。
来る日も来る日も残業を重ねながら、不眠不休となった南の目の下には、くっきりと濃い隈が出来上がっていた。
それでも止める訳にはいかず、うつら、と頭が揺れればエナジードリンクを喉にかっ込み気合を入れ直す。
デスクの隅に空になったドリンクがずらりと立ち並ぶようになってもまだ、南は先の見えない仕事に追われていた。



チクタク チクタク
カリカリ カリカリ



とっぷりと陽も暮れたある日のこと。
時計の音と書類に走らせるペンの音だけが、静かな研究室に響く。
背を猫のように丸めてデスクに齧り付き、仕事をこなす南の影がゴーレムの棚卸し表に被さる。



「おい」

「ひゃっ!?」



そこにもう一つ影が重なっていることに気付いたのは、背後から声を掛けられた後だった。
聞き覚えのある声に、もう条件反射となっているのか。
怯えた小動物のように体を跳ねて振り返った南の目に映ったのは、高い身長で仁王立つ人物。



「り、リーバー班長…」



恐る恐るその名を呼ぶ南に、リーバーは片眉を訝しげに潜めた。



「なんだその反応。声掛けただけだろ」

「す、すみません。集中していたもので…周りが見えてませんでした…」

「だからか。今日お前が提示した残業時間はもう過ぎてるぞ」

「え?」



言われて気付く。
周りを見れば、広い研究室には南とリーバーの姿しかなかった。
普段賑わっている白衣姿の研究員は、二人以外何処にも見当たらない。



「時間オーバーだ。帰れ」

「ぁ…えっと…提示時刻、延長してもいいですか?」

「まだ終わらないのか?」

「もう少しで終わるんですけど、まだ時間が…」

「仕事量と時間配分の管理も社会人の務めだぞ。そこまで膨大な量を押し付けてねぇはずだが」



まごつく南に、一体何にそんなに時間が掛かっているのかとリーバーの目が散乱する書類へと向く。
薄いグレーの瞳は、その書類の中に南以外の仕事も混じっていることにすぐさま気付いた。

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