第82章 誰が為に鐘は鳴る
「……頭痛い…」
がんがんと頭の中で唸る鐘の音。
堪らず額を押さえながら、南はデスクに突っ伏した。
昨日。
ちょっとだけ、なんて言いながら散々コムイに付き合わされて、終いには酒を酌み交わす羽目となった。
アルコール自体は嫌いではないのだが、無理矢理に付き合わされる酒はあまり美味いものではない。
上司の酌を断ることもできずに、何杯も飲んだ結果がこれだ。
話の内容も結局のところ、仕事云々よりも如何にリナリーが可愛いか、に尽きていた気がする。
「南、大丈夫か?体調でも悪いのか」
「! い、いえっ」
振り掛かってきた声にハッと顔を上げれば、心配そうに覗き込んでくるロブと目が合う。
痛む頭から手を離すと、南はなんでもないように笑ってみせた。
酒の飲み過ぎで体調不良など、この科学班ならばネタにされるか呆れられるかだ。
「タップとジョニーがいないんで凹んでるんだろ。あいつらもすぐ戻ってくるって」
座っている椅子の背に凭れながら投げ掛けてくるマービンの言葉にも愛想笑いを向けると、頭を切り替えるように南は内心喝を入れた。
(そうだ、二人はいなんだから。しっかりしなきゃ)
振り分けられた担当分の仕事は、基本は担当が行う。
タップとジョニーが戻って来た時に膨大な量になっていれば、二人を待つのは徹夜地獄だ。
そうなれば再び医務室に放り込まれる羽目になるかもしれない。
二人が笑顔で戻ってくる場所を作る為には、ここで踏ん張らねば。
「───うし、上がるか〜」
「南は今日は残業か?」
「はい。この薬品の整理を終わらせたくて…」
「昨日ジョニーが取り零したやつな。よくここまで仕上げたよ」
「後一歩なので。区切りの良いところまでして上がります」
「お前、そういうところ根が真面目だよなぁ。ま、頑張れよ」
「はい。お疲れ様です」
夕刻。
マービンとハスキンを見送り再びデスクに向き直る。
リーバーに命じられた仕事はどうにか終わらせられそうだと、南は静かに安堵の吐息を溢した。
(薬が効いてくれてよかった)
朝、頭の中でがんがんと鐘を鳴らしていた頭痛も、薬のお陰で今は鳴りを潜めている。
この調子なら仕事も上手く進むことだろう。