第82章 誰が為に鐘は鳴る
「室長ぉ〜…室長がそんなんだから、こっわい顔するんすよ、班長…」
「いや、そーでなくてもこっわいって。班長は」
「確かに、こっわいよね…怒鳴る前の静けさが特に」
「「それな」」
恐々と呟いた南の言葉に、ジョニーとタップも力強く頷き賛同する。
そんな彼らの姿に、面白そうにコムイは笑みを深めた。
「はは、リーバーくんの評判は相変わらずみたいだね」
「ってことは、昔からああだったんすか?」
「うーん、そうでもなかったけど。自分に厳しいところは昔から変わってないよ」
「そうやって厳しくしてる間に、他人にも厳しくなったのか…」
「そうだねぇ……余裕がなかったのかも、ね」
ぽつり。
零れる音はいつものコムイより静かな声だった。
何かに思いを馳せるように、宙を見つめるコムイの目はしかし何も捉えていない。
きょとりと見守る南達に、やがて向けた顔はいつもの笑顔。
「まぁ、結局のところ彼は不器用な人間なんだよ。でも人を見る目も心もちゃんと持ってる。上司にするにも部下にするにも、最高の逸材だと僕は思ってるよ」
「はぁ…確かに、仕事は凄くできる人ですもんね…」
「どう捉えるかは君達次第さ」
ぽんと膝を叩いて一区切りと示したコムイは長椅子から腰を上げた。
「さて。可愛い新人くん達とまだ話していたいけど、そろそろお暇するかな。ずっと一ヶ所に留まってたらリーバーくんがやって来そうだし」
「え"」
「あ、も、もうこんな時間すよ!室長、面会時間は終了っす!」
「出てって下さい!今すぐ!さぁ!」
「…一応、僕も君達の上司なんだけどね…?」
さぁさぁと囃し立てるジョニーとタップに背を押され、見舞いに来ていた南もまたコムイと共に医務室の外に追い出された。
「じゃあまたね、南!タップ連れて早く退院するから、それまでリーバー班長の雷喰らわないよう気を付けて!」
「はは…笑えないその冗談…」
ぴしゃりと閉じられる扉に軽く手を振りながら、力のない笑みを浮かべる。
ジョニーは冗談のつもりなく言ったのだろうが、どちらにしろ笑えない。
あんな怒号を一人で受けるくらいなら、そのまま気絶してしまいたいと思える程に身が竦むものだ。