第82章 誰が為に鐘は鳴る
───それから五ヶ月。
「はぁ〜あ…見事に減ったな…」
ズズ、と音を立ててコーヒーを啜りながら科学班研究室を見渡し、ジジは落胆の溜息をついた。
「なんのことだ?」
「新人だよ、新人。結構な数採用してたのに、もう二人しかいないじゃねぇか」
リーバーのデスクに寄り掛かりながら、マグカップで目の前の光景を示す。
サングラスの奥の瞳で捉えられたのは、南とジョニーのみ。
半年前にはあんなに場を賑わせていた真新しい若者達の姿が、とんと見当たらない。
大方、職場の過酷さについて行けず挫折したのだろう。
リーバーの壁は新人には高かったようだ。
「二人じゃねぇよ、三人だ。タップが残ってる」
「あいつが?何処にいんだよ、出張か?」
「いや。体調管理ができなさ過ぎて健康診断でアウトが出たからな。最低基準値クリアするまで戻ってくるなって、医務室に放り込んである」
「あちゃー…あの体型だったもんなァ…」
「つーかお前また遊びに来てんのか。職権乱用すんなよ」
「失敬なっ俺ァ仕事で来てんだよ、仕事で!」
「とか言いつつ毎度南にちょっかい出してんだろ。仕事だけして帰れ!」
「んだと!?部下に目ぇかけて何が悪ィんだ!俺の職場にゃ女はいねーんだよ!」
「知るかンなこと!」
多忙な時にもズケズケと研究室に足を踏み込んでは、南や給仕中のリナリーに何かとちょっかいを掛けて去っていく。
そんなジジの姿は最低一ヶ月に一度は拝むことができる。
いい加減邪魔をするのも大概にしろと、リーバーの堪忍袋も切れかけた時だった。
「ジョニー!?」
どたんっと人が倒れる音と高い悲鳴。
はっと言い合いを止めたリーバー達の目に映ったのは、真っ青な顔で倒れたジョニーに駆け寄る南の姿だった。