第82章 誰が為に鐘は鳴る
そして紅一点、華やかさは欠けるが真面目な態度で黙々と仕事をこなす日本人女性の、椎名南。
(…女だからって区別は無しだ。仕事量も内容もあいつらと同じにするか)
難しい線引きだが、南を性別の違いで特別待遇にする訳にはいかない。
それでついていけないようであれば、南も科学班には適さなかったことになる。
「おい、お前ら!いつまでも喋ってないで頭と体動かせ!今日も残業だぞ!」
「おっと、班長のお出ましだ…」
「さ、仕事するか。お前らも持ち場につけよ」
「はー、今日も残業か。リナリーの淹れたてコーヒーが欲しいなぁ…」
正に鶴の一声、リーバーの喝にわらわらと仕事へ戻る面々。
新人であるジョニー達も、自分の持ち場へと慌てて駆けていく。
「あの、…リーバー班長。言われた通信ゴーレムの在庫整理をしてきたのですが…」
ただ一人、南だけが指示を仰ぐ為に段ボール箱を抱えたまま恐る恐るリーバーへと歩み寄った。
「あ?ああ、そいつらは解体処分だ。使える部品を種類ごとに分けとけ」
『ピー!?』
『ピー!!』
『ピーピー!?』
「わっ!?皆どうしたの…っ」
「ビビッてんだろ。逃げ出す前に電源OFFっとけよ。貴重な部品だ、失くしたらお前の給料から引くからな」
「えッ!ま、待って…!」
散り散りに頭や肩から逃げ出すゴーレム達に、慌てた南が段ボール箱を置いて駆け出す。
その背中を見送ることもなく書類に向き合うリーバーに、唯一彼の部下ではないジジが苦笑混じりに歩み寄った。
「おー、怖い怖い。すっかり科学班の鬼班長だな」
「お前もサッサと自分の仕事をしろよ」
「わかってるって。…お前は自分にも厳しいが、同じくらい他人に厳しい時もあるからなぁ。真心二割増しでいけよ?じゃねぇとすぐ部下が辞めちまうぞ」
「俺くらいの壁で挫折するようならそれまでだ。命を張ってんだぞ、なら早く辞退した方が良い」
「厳しいねぇ…いやはや、何人残るか」
特にこの時期のリーバーの仕事の鬼っぷりには拍車が掛かる。
そんな時期に入団した南達を哀れに思いながらも、ジジは一人肩を竦めただけだった。
数ヶ月後に、果たして同じ新人面子の姿を拝めるだろうか、と。