第82章 誰が為に鐘は鳴る
「初めまして。この度黒の教団本部科学班第一班に配属されました、椎名南と言います。至らないところもあるかと思いますが、よろしくお願いします」
「…おお…俺はジジ・ルゥジュンだ。先月からアジア支部に飛ばされちまったが、元は本部配属だったんだ。よろしくな」
ぺこりと頭を下げる南に習い、ジジも自己紹介を済ます。
ジジさん、と控えめに呼ぶと南はにこりと笑顔を返した。
何かと自分のペースに持っていくジジの流れを断ち切るとは珍しいこともあるものだと、リーバーは浮いた腰を再び椅子に沈めながら目を見張った。
遠慮や謙虚さはあるものの、自分の意志を言葉にできている南には僅かばかり感心する。
(ま、期待し過ぎは損だけどな)
しかしそれも僅かなもの。
果たして彼女がこの職場に耐えきれるのかどうかは定かではない。
後頭部をガリガリと掻きながら、再び羽ペンを握る。
「まっ南がアジア支部に来たら可愛がってやっからよ。いつでも飛ばされて来いよ~」
「縁起でもないこと言うなよジジ」
「お前ら、ジジの言うことは大半スルーしとけ。関わるだけ面倒だからな」
「オイなんだよその言い草。俺ァ先輩だぞ!?」
「へいへい。偉大なる先輩サマだ、頭だけ下げとけ下げとけ」
「っしたァ!」
「タップは威勢いいなぁ、本当によ!」
「威勢"だけ"はな!」
マービンの投げやりな提案に真っ先に応えたのは、ふくよかな体の新人研究員。
タップと呼ばれた彼を中心に、皆がゲラゲラと笑う。
各々の雰囲気は悪くない。
人柄も誰もが良さそうだ。
しかしこの職場で生き残るには、重要なのはそこではない。
握った羽ペンは書類に走らせることなく、リーバーは頬杖を付きながら横目で彼らを見やった。
肥満体型のふくよかな体に分厚いタラコ唇の、ノリの良いアメリカ人男性の名はタップ・ドップ。
(不健康。そのうちカロリーの取り過ぎで倒れるんじゃねぇか)
分厚い瓶底眼鏡にひょろりと細い小柄な体の、如何にも理系であるこれまたアメリカ人男性の名はジョニー・ギル。
(体力不足。これもうちの職場じゃエネルギー不足で撃沈)
他にも新人男性の面子は幾人もいたが、誰もが今一つ決め手に欠ける、とリーバーは眉を潜めた。