第82章 誰が為に鐘は鳴る
『ピーピー』
『ピー』
「おや。どうしたんだ?そのゴーレム達」
「それが…運んでる途中で起動スイッチ入ってしまったらしくて、この有様で…す、すみません」
「うわ、南に集ってんなぁ。好かれてるんじゃねぇか?」
「こいつら雄か…」
「いやゴーレムに性別なんてあったよ?」
一層研究員に絡まれている中心から、ぽそぽそと聞こえてくるはこの場には不釣り合いな高い声。
目敏く見つけたジジは、通信ゴーレムの入った段ボール箱を抱えた人物に目を止めた。
「あれか、椎名南ってのは。ちょっくら行ってくる!」
「おい待…!…あの野郎、しっかり名前まで把握してやがる…」
リーバーの制止も聞かずに飛び出したジジが科学班を掻き分け進む。
「よぉーう!お前ら新人科学班だって!?」
「ジジ?」
「うわ、ちょ、押すなって…ジジ!」
「ハイハイそこ退けー俺にも挨拶させろ!」
押しやり圧しやり進んだジジの手は、やがて段ボール箱を支える手を掴み取った。
細い片手を両手で握れば、男にはない独特の柔らかさを感じる。
「おう、お前さんが南か!?一ヶ月よく耐えたな、俺が褒め───…」
段ボール越しに満面の笑みで讃えるジジの声が、途端に萎む。
サングラスの目の奥が捉えたのは、真新しい白衣に身を包んだ一人の女性だった。
「あ、あの…」
突然のジジの出現に驚きながらも、手は振り払わずおどおどと見上げてくる。
黄色人種の肌に、色素の濃い髪色。
仕事の邪魔にならないようにか、後ろで一つに縛り上げているのは素っ気ない黒ゴム。
成人はしているだろうが、アジア人の為か幾分幼く見える。
そこに拍車を掛けているのは、申し訳程度にしかしていない薄い化粧の所為だろう。
ほとんどすっぴんと言っても過言ではない顔は、決してリナリーのような美人とは言えない。
総じて、
「…芋い…」
それはジジの予想を見事に覆した女性だった。
「芋って言ったか、今」
「おいジジ、失礼だぞ」
「確かに南は素朴さあるけどよー」
「こら、マービンまでっ」
真顔でぼそりと呟くジジに、一斉に周りが騒ぎ出す。
「あ、あ、あの…っ」
取り残されているのは渦中の人物、南だけだ。