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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「───リーバーくん」




教団の一角にある、暗い遺体安置所
どうやって帰って来たのか、記憶も朧気で憶えていない

台に寝かされた彼女の体を前に、動かない俺に声が掛かる
振り返れば、なんとも言えない情けない顔をしたコムイ室長がいた
らしくもない




「なんて顔してんですか」




室長の顔を見て、少しだけ笑う
漏れた笑みはきっと自嘲的なものだっただろうけど、無理に作り変える気はなかった
どうせ変えたって、泣き過ぎて腫れた目の下の跡は誤魔化せやしない



この後、彼女の体は棺に入る
そして二度と陽の光を見ることはなくなる




「彼女のゴーレムの映像を解析し終わったんだ。聞くかい」

「…どうぞ」




再び彼女に目を向けたまま、背後の室長の言葉を促す
一呼吸だけ間があって、ゆっくりと冷静な室長の声が薄暗い部屋に響いた




「あそこにいたのは30体程のAKUMAと──ノアが、一人」

「………」

「AKUMAは全て彼女のイノセンスによって破壊された。だがノアは…映像は途中で途切れていたが、恐らく…彼女の死」

「わかりました」




その先は聞きたくなかった
室長の言葉をやんわりと遮る




「死因なんて…今更です」




憎むべき相手は知っている
でも俺じゃどうにもならない

AKUMAもノアも倒せるのは、神に定められしエクソシストだけ───










何が神だ










「申し訳ありません、室長。まだ仕事が残っているので」

「リーバーく」

「失礼します」




仕事をしていたいんだ
忙しければ、哀しみに浸る暇はないから
辛い現実を少しでも忘れていられるから

この黒の教団という職場は、人の死が当たり前に身近にある
それでも何度も仲間の死を目の当たりにしても、仕事に向かっていた
今まで何度も、そうしてきた

そしたら少しは心の傷も癒えて…






"無理しないで"






…違う
俺が前を向けたのは、彼女がいたからだ

同じ哀しみを共有して、支えてくれた
俺より遥かに小さく華奢な体で、俺を守ると言った女性

彼女が、いたから



彼女がいない今…俺の心は乾ききったまま






























そうして、俺の世界は死んだ









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