第82章 誰が為に鐘は鳴る
✣
彼女が死んだ
"いってきます"
俺が黒の教団の科学班に就任して、初めて心を寄せた相手が彼女だった
いつものように綺麗な笑顔を浮かべて手を振る彼女を
いつものようにエクソシストとしてAKUMAと戦いに行く彼女を
あの日も、いつものように見送った
イノセンスの調査の為に向かった、ペルーのシルスタニ遺跡
其処で大量のAKUMAが彼女とファインダー達を襲ったと、数日後に本部に報告が届いた
胸騒ぎがした
足が震えて、冷や汗が止まらなくなった
脳裏に焼き付いているのは、最後に見送ったいつもの彼女の笑顔
それがずっと頭から離れなくて、コムイ室長に頭を下げて、援助に行くチームの中に無理言って俺も入れてもらった
俺よりずっと細い華奢な体で、沢山のAKUMAと戦ってきた彼女
負けず嫌いで、現実主義で、でも自分にも厳しくて、本当は寂しがり屋で
ずっとずっと優しかった
そんな彼女を、俺は守ることもできない
ただ毎日傷付きに行く姿を見送るだけ
"リーバーが待っていてくれるから、私は帰って来られるのよ"
そんな俺に、彼女は笑ってそう言ってくれた
帰る場所があるから、頑張れると
どんなに辛いこの世界でも、生きていられると
だから俺も頑張れた
どんなに彼女が傷付いても、笑って迎えることができた
なのに───なんでだよ、神様
なんで、彼女を連れていくんだ
シルスタニ遺跡
辿り着いた其処には沢山のAKUMAの残骸と、ファインダー達の体の切れ端が転がっていた
"戦場"だった
俺が普段身近に目にしない、血と腐敗の臭いが充満した荒地の戦場
その中心に、彼女はいた
全身血だらけで、片足が引き千切れていた
喉も裂けていて、大きな空洞を作っていた
なのに
そんな体で、仰向けに寝転んで───笑っていた
笑っていたんだ
頬には血と涙の跡が沢山付いてたのに、今まで見たどんな笑顔よりも、綺麗に笑っていた
まるで安らかな寝顔みたいに
そして死んだんだ
涙よりも嗚咽が漏れて、動かない彼女の体を抱きしめて俺は啼いた
子供みたいに、声を上げて啼いた