• テキストサイズ

科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「目を覚ませ!」



間近で聞こえる怒号に、手首を強く掴むリーバーの体温。
カタカタと震えていた六幻がぴたりと動きを止めた。

項垂れていた南の顔が上がる。
先程垣間見た、鬱々とした表情を浮かべているのだろうと思っていた。
しかしリーバーの目に映った南の表情は違った。



「っ…わかって、ます」



叩き付ける雨の所為なのか、南の目尻から滑り落ちる水。
眼球を濡らしながら眉と口角は下がり、歪んだ表情は今にも泣き出しそうな子供のようだった。
震える声で、それでもはっきりと南は自らの声を口にしたのだ。



「全部、私の、所為なんです」



それは誰かに言わされた言葉ではなかった。
自らの口で自らの思いを述べる。
大事な時程、逃げずに向き合ってくる南のことをよく知っていたからこそ、それが偽りでないことはリーバーにも伝わった。

同時に言葉を失う。
何かに取り憑かれて、自分を責め立てていたのではなかったのだ。
南が漏らした自身の思いに。



「私が、皆……を…」



語尾が震える。
力を失くした南の手から、血に染まった六幻が滑り落ちた。
その瞬間を待ち侘びていたかのように、急速な変化を見せたものが一つ。

ぞわりとリーバーの肌に鳥肌が立つ。
南の皮膚の上でじわじわと這い上がっていた影のようなものが形を変えた。
ぐにゃりと歪んで伸びるそれが、まるで無数の腕のように急速に南の体を這い上がる。
六幻に跳ね返され届かなかった指先まで黒く影が覆い、やがては南の首にも巻き付いた。



「っ!?待て…!」



それは南の体を捉えたまま引き摺り込んだ。
何処へ引き摺り込もうとしているのか、科学も道理も無視した動きに理解は追い付かない。
しかし確かにそれは、南の体を何もない角度から引き込んだのだ。

涙のような雨水を称えた南の瞳が黒く濁る。
僅かな吐息を零して南の呼吸が止まる。

強い力で引かれた体が、何もない背後へと落ちた。



「南…!」



城壁の上からまるで背を向け身を投げるように落下する南の体を、リーバーは咄嗟に抱き込んだ。
柵の上から身を投げたのは、二つの体。

/ 1387ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp