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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



ズ、と何かが這うような音が鳴る。
ずるり、ずるりと。
それは地べたを這うように現れた。



「なん、さ…あれ…」

「っ…」



息を呑む。
ラビとリーバーの目にもそれははっきりと見えた。
南の足元から黒く塗り潰していくかのように、這い上がる影。
ゆっくりとだが確実に、南の肌を覆っていった。



「本当に何かが取り憑いてるのか…?」

「一人じゃないって、誰に何されたんさっ」

「っ………タップ…」

「「!?」」



息を呑む。
震える南の口から零れた亡き友の名に、二人は今度こそ言葉を失った。



「マービン、さん……ハスキン、さんも…皆…みんな、冷たい所に…いるの」



項垂れる南の体を覆っていく影は、足から胴へと移り、やがて腕へと這い伸びる。
しかしカタカタと鳴る六幻に近付くと、それ以上は進めないのか南の手首で渦を巻いた。



「みんな、置いてきてしまったから……冷たい、暗い、所で…苦しんでる」



しかし二人は南の様より、彼女の紡ぐ言葉に意識を奪われていた。
悪夢のような、忘れられないあの悲惨な事件が起こってから数ヶ月。
幾度かそのことについて言葉を交わし、傷を負いながらも皆で前を向こうとしていた。
その中で、南が暗く嘆いたことなどなかったからだ。



「私が……置き去りに、した…から…私の所為で…皆…死───」



ガンッ!



鬱々とした南の声を止めたのは、荒い打撃だった。
手にしていた鉄槌の先端の槍を地面に突き刺した、ラビの手によって。



「…はんちょ、前言撤回さ。さっき階段で言ったこと全部」



隻眼で南を捉えたまま、眉間に濃く皺が刻まれる。



「南に誰が何吹き込んだか知んねぇけど、それがタップ達じゃないってことくらいオレにもわかる」



今にも崩れ落ちそうなふらつく体で、心身共に堕ちていく南の姿を前にして、生まれたのは怒り。



「あいつらがそんなことで南を責めるはずがない。馬鹿なこと言うなよ…ッ」



南の心を抉り取ったのは、紛れもなく仲間達の死だ。
そこに突け込み、彼女の心と体を諸共飲み込もうとしている輩がいる。
それがタップ達であるはずがない。

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