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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「はんちょ…あれ、」



リーバーには目を止めず、その向こう側を見ていたラビが呼ぶ。
呼ばれた理由など、聞かずともそれはリーバーの目の前にあった。

階段を上り切った通路の奥底。
其処には他より頑丈な作りの扉が一つ。



ギィ…ギィ…



ばたばたと強く外から打ち付ける雨風に、微かに隙間を開けては揺れていた。
其処は教団の展望台広場への入口。
転々と階段に続いていた血痕は、扉の前で途切れていたのだ。



「まさか、この向こう側に…っ?」

「外は嵐さ!」



鍵の掛かっていない扉を二人で押し開く。
途端に顔や体に打ち付けてくる強い雨風。
空は真っ黒な嵐雲が塞ぎ、ゴロゴロと雷が唸りを上げる。



「あれは…!」

「南ッ!」



其処に彼女はいた。

展望台を囲っている城壁の上に登り、強風の所為かふらふらと足取り危なく立っている。
今にも高い城壁から落下してしまいそうな危うい姿に、リーバーとラビは血相を変えた。



「何してるんだ、南!其処から下りろ!」



破れた白衣をはためかせていた後ろ姿が、リーバーの声に反応を示す。
ゆっくりと体の向きを変え振り返る南の表情は、鬱々としたものだった。



「…リ、バ…はんちょ……ラビ…」



しかしゾンビのように正気を失っているようには見えない。
暗い瞳にリーバーとラビを映すと、辿々しくも名を呼ぶ。
だが二人の目を引いたのは、南の表情以上にその手元だった。

震える南の手に握られていたのは、鞘が抜かれた六幻。
片手で柄を握り、もう片手は刃を握り締めている。
発動前の黒い刃だが、それでも充分な切れ味を持つ日本刀型のイノセンス。
握る掌の皮膚に鋭い切れ目を入れ、雨に混じる薄い紅色を伝わせていた。

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