第82章 誰が為に鐘は鳴る
「だが俺にだって取り憑いただろ、お前。なんでその怨霊は俺を狙わない?」
「体は乗っ取ることがでぎだが、心までは乗っ取れながっだ。お前は強い人間だ」
「俺が?」
肝心な時に足を止めてしまうことは、一度や二度ではなかった。
仲間の死に直面した時も、抗うことはできても救う手立て一つ取れなかったというのに。
そんなリーバーを亡霊は強いと言う。
俄かには信じ難い言葉だ。
「人の強ざはその時々で違うものだ。少なぐどもわだじには、リーバーの心は強い。あの時、体には取り憑げでも心には入り込む隙間なんがながった。お前の隙間はもう別のもので埋まっでだからな」
「別のものって…」
「自分でわがるだろう」
「………」
「あんさ。そういう話は南を追いながらやんね?」
意味深な言葉を交わすリーバーと亡霊だったが、ラビの心はそれ以上に優先すべきことがある。
それにはリーバーも一つ頷くと、ポツポツと続く微かな血痕を辿った。
人気のない暗い廊下を、リーバーとラビの足音だけが急ぎ足で響き渡る。
「大体この血はなんさ。南の怪我の止血ならしたはずなのに」
「わからん。ただ、南の身に何かあったのは確かだろうな」
やはり亡霊の言うように、何かに取り憑かれてしまったのだろうか。
それは亡霊の言う、悪意を持った亡き魂なのだろうか。
やがて階段へと続く血痕を頼りに、二人の足は上へ向かった。
「…あのさ、はんちょ」
「なんだ」
「心霊とか詳しくなりたくねぇけど、エクソシストやってればそれなりに知っちまうし。…地縛霊とかってもんは、その場に深い未練がある魂から生まれるもんだろ」
「それがなんだ」
「南の心の溝ってもんは、きっと…あの"事件"で裂けてできたもんだろ」
「…それがなんだ」
「だからさ……もしかしたら、の話だけど…オレの単なる憶測だけど」
歯切れ悪く言葉を濁すラビに、先を上っていた歩調を緩めリーバーは振り返った。
見下ろせば、難しい顔で眉間に皺を作るラビが見える。
「なんだ?」
「…もしかしたら、その未練を残してる魂ってやつは……あの時死んだ、仲間の───…」
"魂かもしれない"
最後のその言葉を、ラビは呑み込んだ。
可能性として考えられたとしても、信じたくはない。