• テキストサイズ

科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「………」



南が沈黙を作ってしまえば生まれる静寂。
そのシンとした静けさが何故だか不気味に感じる。



(…あ、れ…そう、言えば)



頭の上で揺れていた、鋭い聴覚を持った獣耳はもうない。
あの耳で幾度も拾っていた、謎の音。
それが何故今、此処で、聴こえたのか。

人の耳にも届く程、近くに在るということなのだろうか。






───ズ…






「っ」



音が聴こえた。
何かを引き摺るような、そんな音。
以前も確かに聴いた、謎の音だ。



ズ…ズ…ッ



ラビと共にいた時は、いつの間にか消え去っていた音。
それが今度は幾つも重なり響いてくる。
少しずつ大きくクリアに聴こえてくるのは、まるで忍び寄っているかのように。



「リ…リーバー班長…?」



腹に亡霊の少女を抱えたリーバーが、戻ってきたのだろうか。
そう願いつつも南の頭の中で警告が鳴り響く。
危険だと、五感で感じ取っているかのように。



ズズ…ズ…ッ



何かを引き摺るような音。
暗く消し去った廊下の先から響いてくる。






ひたりと、闇の中から現れたのは一つの手だった。






「───っ」



息を呑む。
それは人の形をしていた。
一歩一歩、進むように手の形を成したものが床を這う。
四肢は墨のように真っ黒に塗り潰され、服も顔も性別もわからない。
しかしデンケ村で見た影のような人の形とは違っていた。
ぼやけた曖昧な線ではなく、はっきりとわかる凹凸。

何故だか見覚えがあるような。

塗り潰された手で床を押しながら、頭部と思わしきものを地面に押し付け這い進む。
ずるり、と引き摺るような音。
地面に擦れた黒い何かが、這った後を残すように後ろに続いていく。
真っ黒に塗り潰された、まるで血のような痕跡。



「…っ…」



これは生きた人ではない。
リーバーの体に取り憑いていた亡霊でも、ゾンビウイルスに感染された団員でもない。

そう直感した南の頭が警告を鳴らす。

しかし声は出ない。
身が凍り付く。
得体の知れないものを前に、恐怖で体は慄いた。



(逃げ、ない、と)



頭ではわかっているのに、足は縫い付けられたように動かなかった。

/ 1387ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp