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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「うそっほんとっ?」



真っ暗な硝子に映った自身の頭を凝視しながら、嘘か真かと実際に触れてみる。
凡そ人は持ち得ないふわふわした触感の耳などない。
あるのはつるりと丸みを帯びた頭部だけだ。



「やった…!」



薬の効果が切れたのだろう、悟ると同時に南は歓声を上げた。
人より遥かに鋭い聴覚はこのゾンビの世界で大変役立っていたが、見る度にブックマンへの罪悪感も湧いていた。
元に戻ったと悟ればなんだか頭部がすっきりしたような感覚にもなる。
どうやらひと段落したと、安堵の溜息をついた。



「ん?ということは…もしかしてラビの幼児化も切れたのかな…」



ふとそこで気付く。
あの幼児化しても末恐ろしかったゾンビ神田の体が元に戻ることを思えば寒気はするが、ラビが元に戻ってくれるならばありがたい。
このタイミングなら、きっとリーバーの力にもなる。



(ラビが元の力を取り戻せば、作戦は成功するはず。きっと無事で帰ってくる…!)



半ば言い聞かせようにも思えたが、先程とは心の重さが違った。
夢物語ではなく、現実味がある。
きっと二人は帰ってくるだろう。
どんなに時間が掛かろうとも、南はそれを待つつもりだった。










───ぐぷり










聞き慣れた、どこか濁った音が届く。



「(これ…っ)皆…っ!?」



何かを吐き出すような溢れる音。
それはあの擦り切れた亡霊の少女の口から零れていた音だ。
思わず口角が上がる。
もう二人は帰ってきたのだろうか。

南は喜びと共に、急いで固く閉め切っていたドアに飛び付いた。
ぐぷり、と再度音が立つ。



「待って、今開けるから…っ」



鍵を外すと共にガラリとドアを開け放つ。



「おかえ……り…?」



しかし弾んだ迎えの言葉は、瞬く間に途切れた。



「………あれ」



ドアを開け放った先。
二人を見送った長い廊下には、人影など一つも見当たらなかったのだ。
真っ暗な闇が長く長く続き、廊下の奥底を消し去っている。
人気を感じさせない静まり返った空間。



(空耳…?)



確かに聴こえた気がした。
この教団内で幾度となく聴き続けてきた音だ。

あれは、空耳だったのだろうか。

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