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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



✣ ✣ ✣ ✣


「……大丈夫かな…」



静寂。
聞こえるのは己の呼吸音と、腕時計の針の音だけ。
静か過ぎる空間は過ぎゆく1分もいつもより長く感じる。
部屋の隅で膝を抱いて座り込んだ姿勢のまま、南は心配そうに呟いた。

何度目の呟きだろうか。
数えてもいないが思い出せないくらい呟いていたらしい。
溜息を零しながら、堪らず目の前の膝に顔を埋めた。



(無事で帰ってきますように…)



その願いも何度目のものか。
願えば願う程心配は募るのに、止めることはできない。
腕の立つエクソシストと頭の切れる科学者なのだから、そうそう倒されはしないだろう。
それでも"絶対"はないのだから不安は尽きない。
特に本部襲撃で沢山の仲間達を失ってからは、南の中でそれは現実味を帯びていた。
ついさっきまで当たり前にあった存在が、突然消えてしまうこともあるのだ。



「帰って来なきゃ怒るからね…」



膝に顔を埋めたまま二人へと思いを馳せる。
その声は弱々しく、今にも消え入りそうなものだった。

帰って来なければいけない。
二人には無事でいてもらわなければ。
何故なら、中途半端でなどいられないからだ。

二人の想いを知って、自覚した自分の想い。
そこにけじめをつけなければ。



(答えは……もう、出たんだから)



仲間の命が散る瞬間を何度も目の当たりにして、身を引き裂かれるような思いも経験した。
その時に実感した。
強く願ったことがある。

彼にこの想いを伝えなければ、と。

死が隣り合わせにあるこの世界で、生きていることにさえ辛くなることもある。
だからこそ向き合っていなければいけない想いだ。
やっと見つけられたものだからこそ、しっかりと繋ぎ止めていたい。

だから、



「…早く帰ってきて…」



ぽつりと、小さな小さな声で願う。
胸に一つの想いを抱いて。



「……?」



違和感のようなものを感じたのは、その時だった。
膝に埋めていた顔を持ち上げ、怪訝そうに辺りを伺う。

何かはわからないが、なんとなく奇妙な違和感が付き纏う。
何処から感じているのだろうか。
そわそわと辺りを伺えば、窓硝子に映った己の姿にぴんときた。



「あっ」



ぴこぴこと常に南の頭上で揺れていた、二つの獣耳が消えていたのだ。

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