第82章 誰が為に鐘は鳴る
「別の…」
「…誰かの、声…?」
ラビとリーバーの声が重なる。
恐る恐る呟く二人の声は、半信半疑のようにも聞こえた。
「な、なんさ別の誰かって…幽霊はお前だけだろ?」
「………」
「なんでそこで黙るんさ!?他に地縛霊なんていんのかよ!」
「…ぞれは…」
「お前、何か隠してることでもあるのか?」
冷静だが、有無を言わさない低いリーバーの声。
南に関することだからこそ、譲れないリーバーの意思を前に亡霊はとうとう口を開いた。
「隠すづもりはながった…」
その心の奥底に秘めていたものを。
「わだじは、教団への恨みを持った複数の魂が寄せ集まり形作られだものだ。だがコムイ室長のお陰で、改心することができだ。…一部の、わだじは」
「一部?」
「そういや成仏するのかって話になると、渋る所あったよな、お前。何か心残りでもあるんさ?」
観察眼と記憶力の鋭いラビの前では、僅かな迷いも見破られていたようだ。
自然と低くなるラビの声に、亡霊は微かに唸る。
「ごの体は、わだじだげの思考じゃない。コムイ室長に救われでも尚、憎悪を消せずに納得じない魂もいだ。ぞれはわだじの心とは折り合いがつかなかっだ。そいづを抱えたまま、リーバーに取り憑くごとはできない。コムイ室長の妹のように、体を乗っ取ってしまう危険性があったがらな」
「って、ことは…」
「もしかして…そいつはお前とは別に、この世に存在してるって、そういうことか?」
「…ああ。ぞうだ」
リーバーの予想は的中してしまった。
「あいづはまだ、此処の人間を恨んでいる。目的を果たすまで、この世で彷徨い続けるだろう」
亡霊のその言葉がどういう意味を成すのか。
瞬時に理解した二人は、視線を混じり合わせた。
南が耳にしていた謎の声は、常に彼女の傍に在った。
となれば、今もまだその可能性は高い。
「っ戻るぞラビ!」
「わかってら…!っ!」
「! どうした、怪我が痛むかッ?」
「へ…ンなこと言ってられっか…ッ」
即座に駆け出そうとするも、ソカロの手で切り刻まれたラビの足は思うように動いてくれない。
リーバーの肩を借りながら、ラビは歯を食い縛った。