第82章 誰が為に鐘は鳴る
「無鉄砲で自分より他を重んじる。頑固だがら余計にタチが悪い」
「わーお…散々な言われ様さ…」
「本当のごとだ。ぞしてお前達の中の優先順位は、あの南という女に向いでいる」
「…だったらなんだ。俺達に説教でもしようってのか?」
「……いや」
リーバーの腹から顔を出すという、奇妙な格好のまま。
少女はボサボサの頭を僅かばかり下げた。
「コムイ室長もぞうだが…ぞういう人間は、わだじの周りにはいながった……羨まじい」
「お前…また…」
〝羨ましい〟
その言葉を恨めしげに何度も吐きながら、リナリーの体を乗っ取った。
妬みよりも寂しさが強い亡霊だった。
その負の感情が再び湧き上がったのかとリーバーが警戒を強めると、体で繋がっているからだろうか。
リーバーの意思を汲み取るように、少女は首を横に振った。
「安心じろ。あの女に取り憑いて暴れたりじない。ぞういうことは、もうしないと室長に誓った」
「…本当だな?」
「ああ。ぞれにあの女に取り憑いた所で、向いてぐれるのはお前達だがらな。どうせなら室長に向いて欲じい」
「わーお…幽霊にフラれるなんて初めてさ、オレ」
「室長もやけに好かれたもんだ…」
「…だがらワクチンを作ったら、一番にお前に投与じろ」
項垂れていた顔が上がる。
枝毛だらけの長いブロンドの合間から見える目が、リーバーを映し出す。
「わだじが中から抑えてはいるが、お前の体はウイルスに蝕まれでいる。ワクチンを投与じないと、いずれは暴走ずるぞ」
「ああ…そうだったな」
「ワクチンを投与したら、はんちょの体から抜け出して成仏するんさ?」
「…わだじが起こした事件ももう解決するだろう…この世に残り続ける理由はない」
嗄れた声を出せば、ぐぷりと溢れる音が鳴る。
こうして言葉を交えても、その音には慣れない。
ラビは僅かに背筋を震わせて、寒気を払うように首を横に振った。
「その音を止めてくれんなら、もう少し此処にいてもいいけどさ…」
「おいラビ」
「だってなんか薄気味悪ィもん…はんちょはそう思わね?」
「いくら心霊系が苦手だからって、時と場合を考えろ」
「…だってさ…」
作戦の協力をしてくれた亡霊に、恩義がない訳ではない。
しかしラビの表情は複雑だった。