第82章 誰が為に鐘は鳴る
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「イデッ!痛いはんちょ!それ痛いってもっと優しく!」
「これくらい我慢しろ。早く戻らなきゃなんねぇだろ」
「それはそうだけど…あだだ!だ、大丈夫だって!大方のゾンビは始末したから、南への危険も薄れてるさ!」
「だからって危険がないとは言い切れないだろうが。大体、ずっと不安を抱えたまま南を待たせるなんて、お前も嫌じゃないのか」
「っ…それは…まぁ、」
負傷した腕やら足やらにリーバーが荒い応急処置をこなしていく中、ラビは口を噤ませると目の前の衣類を手に取った。
「…わかったさ。クロちゃんの血は採取できたし、後は南と合流して科学班のラボに向かえばいいんだろ?」
「ああ。機械が揃っていればすぐにワクチンは作れる」
「後は厄介なユウや元帥達を優先にウイルスを完治させていけば…」
「この一件は収束できる」
「はぁ…やっとここまできたさ〜」
リーバーが用意した大人サイズの衣類へと着替えながら、ラビの口から大きな溜息が漏れた。
ここまで来るのに随分と長い道のりだったように思う。
やっと見えた一筋の確かな希望の光。
此処は第一広場から然程離れていない、未使用の空き部屋。
一時避難しながら僅かな休息も取る間、亡霊の少女はじっとドアを見つめていた。
「どうだ、新手のゾンビは現れそうか?」
「…いや…気配はない。どうやらさっぎの攻撃で、ほとんど一網打尽にできだらじいな」
「だろっ?オレのお陰さ♪」
「だからって無茶し過ぎだ。あのソカロ元帥相手に逃げ出さないなんて、一歩間違えればお陀仏だぞ」
「イテッ」
ふふんと胸を張るラビの頭を、呆れ顔のリーバーがぺしんと軽めに叩く。
ラビの両腕が失われれば、エクソシストとしての道を絶たれるだけではない。
無事に戻って来てと懇願していた南の思いを、踏み躙ることになる。
「全く…南に自分を第一に考えろって言われただろ」
「はんちょには言われたくないさ」
「俺は無闇に体を張ってないぞ」
「クロちゃんへの決め手に欠けてただろ。自分第一なら、あそこで迷ったりしないさ」
「………」
「どっぢもどっぢだ、お前達は」
ラビの意見にリーバーが反論できずにいれば、盛大な溜息がその場に響き渡った。
亡霊の少女だ。