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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



机に向かう精神力を要する仕事だけでなく、体力も必要とされている科学班。
特に誰よりも徹夜を要し、誰よりもコムイを追いかけ回していたリーバーの体力は確かなものだったのだろう。
怒りも相俟ってか、向かうゾンビは誰も彼の勢いを止められなかった。



「ハァッ…」



それでも最上階へ着いた頃には、リーバーの足も鈍くなる。
重い足で階段を登り切ると、堪らず両手を膝に付いた。



「グル…ル…」



息を乱すリーバーの前に、のそりと踏み出す一つの影。
その口から零れる吐息は、唸り声のようなもの。



「やっぱり此処にもいやがったか…悪いが手加減は──」



大きく息を吐き出し、どうにか斜めに傾いていた体を起こす。
そうして見えた目の前のゾンビ化した仲間に、リーバーは向けていた言葉を止めた。

老人のように真っ白な髪。
左目の上を走る真っ赤なAKUMAのペンタクル。
イノセンスは発動していないが、それは確かにエクソシストである少年───アレン・ウォーカーだった。



「…アレン…」



誰よりも仲間のことを思い自ら盾となる彼が、敵となって立ちはだかっている。
普段ならあり得ない光景を目の前に、リーバーは気を萎めてしまった。



「おい、そいづはエクソシストだ…!迂闊に近付くとやられるぞ!」

「っ…ああ、わかってる。あいつの腕は誰よりな」



つい感傷に浸るリーバーに喝を入れたのは亡霊の少女だった。

科学者として一人一人イノセンスの性能はよく心得ている。
アレンは未成年でありながら臨界点を突破した、元帥と同等の力を持つ人物。
そうでなくても、普段から神田と同じで鍛錬に勤しんでいる者だ。
体格差などは当てにならない。



「でも此処まで来て引き下がれないだろ…!」



勝ち目のない相手を目の前に、足止めの為に体を張ったラビと同じだ。
此処で引き下がれば全ての行動が無駄となってしまう。
アレン越しに見える広い天井には、渦を巻いて舞い上がる矢が見える。
目的は目と鼻の先なのだ。



「悪いなアレン…!倒されてくれよ!」

「おいッ!」



亡霊の静止も聞かず、先手を打ったのはリーバーだった。
相手はエクソシストだが、理性を失っているゾンビと化している。
動きもそれに合わせて単調になっていることが多く、アレン相手でもどうにかなるかもしれない、と。

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