第82章 誰が為に鐘は鳴る
「チッ…!はんちょ!オレが足止めするから、その間に回収して来るさッ!」
「でもお前、そんな体で…!」
「じゃあ誰が元帥の相手するってんだよ!オレ以外いねーだろ!?」
「っ…10分で戻る!」
「へっ、5分で頼むさ」
階段へと走りゆくリーバーを見送ることもなく、ラビは目の前の巨体と向き合った。
小さな少年の体では、大柄なソカロはより大きな壁のように見える。
「せめて体が元に戻ればな…くそ、」
子供の体では、鉄槌の威力は変わらずとも支えるラビ自身の筋力に問題が生じる。
いつもの力が出せていないのは明白だったが、それでも逃げる訳にはいかない。
この狂人のようなゾンビを南の下へと連れていく訳にはいかないのだ。
「保ってくれよ…"雷霆回天"」
「しゃらくせぇ!まだ戦り合おうってのか!」
「ったり前さ!此処で折れたら…帰れねーだろッ!」
巨大化させた鉄槌に浮かぶ"天"の文字。
「天判!」
小さな手で振るえば、雷を纏った眩い龍が飛び出した。
「───ガァアッ!」
「ッお前達に構ってる暇は、ないんだが…なッ!」
螺旋状の階段を駆け上がるリーバーに、数は減っているものの蠢くゾンビ化人間達が襲いかかる。
脇のホルスターに収めた銃は抜けない。
代わりに廃れてボロボロになっている白衣の裾を破くと、握った拳に巻いて腕を振るった。
相手がエクソシストでなければ、どうにかリーバーの腕でも回避することができるらしい。
鳩尾や脛など急所に打撃を与え、隙を見て進んでいくリーバーに亡霊の少女がぬるりと顔を出す。
「武道派じゃないど、言ってだ癖に」
「ああ、武道派じゃないさ!俺はインテリ野郎なんだ…よッ!」
更に一打。
目の前の団員の顎を殴り上げ、壁を突破する。
「だからこんな仕事は真っ平ごめんだ!全部終わったらあの巻き毛から慰謝料ふんだくってやる…!」
「室長の所為じゃない、わだじがゾンビウイルスを───」
「作ったのはあいつだ馬鹿野郎!お前も同罪だけどな!あいつも悪い!」
「…お前の上司だぞ」
「だったら余計な物作って教団壊滅なんて危機に陥らせてんじゃねぇ!身内で全滅なんて笑い話にもなりゃしねぇよ!」
「………」
尤もなリーバーの意見に、流石の亡霊も黙り込んだ。