第82章 誰が為に鐘は鳴る
ラビの背後には壊れたシャンデリア。
どうやら間一髪、リーバーをシャンデリアの激突から救い出してくれたらしい。
小さな体でも流石エクソシストと言おうか。
「お前…」
しかしリーバーは笑顔を浮かべはしなかった。
それとは反対に顔を歪ませ、目の前の少年を凝視する。
「ったく…お荷物なんて勘弁だからな…仕事は、済ませたのかよ…?」
溜息混じりのラビの声は辿々しい。
小さな体には不釣り合いな程、体の至る所に赤い斑点が飛んでいた。
恐らくソカロにやられたものなのだろう。
鉄槌で体を支えながら、げほりと嘔吐く。
「あ、ああ。…一応」
「じゃあさっさと此処から逃げねぇと」
「いや、それが…クロウリーから血は採取できたんだが…」
「? なんさ?」
「ん」
「ん?」
リーバーが言葉少なく指差した先は、高い天井。
怪訝な顔で見上げたラビの翡翠色の隻眼が捉えたのは、シャンデリアの千切れた鎖の側まで舞い上がっている、クロスボウの矢だった。
「お前のその風を止めてくれないと、あれが回収できないんだが」
「はぁっ?この場でコレ止めたら、即ゾンビ達の餌食だろ!何やってんさ!」
「クロウリー相手に手間取って…そ、そういえばクロウリーはっ?」
「ああ、クロちゃんなら平気さ。自分で脱出してる」
理性のない獣と化した分、危機感も鋭くなっていたのか。
ラビの手助けなどなくとも、素早い身のこなしで廊下の奥へと逃げ込んでいた。
シャンデリアの下敷きにはならなかったことに、ほっとリーバーが胸を撫で下ろす───暇もなく。
「オラぁあ!!!」
「っ!?」
「チッ!」
シャンデリアの向こう側から飛び出してきた大きな影が、巨大な刃を突き立てる。
リーバーの体を押し倒すようにして、ラビが小さな体で回避した。
「逃げろはんちょ!こいつはマジで手に負えねぇ…!」
「逃げる前に矢の回収が先だっ」
「ああクソ…!でも風は止められねぇからな!」
「一瞬だけ止めてくれればいいだろッ」
「だって俺だけの技じゃねーし!」
「はっ?」
「半分外の嵐みてーなもんだから、簡単に止められねぇんさ!」
「はぁっ!?なん」
「ゴチャゴチャ煩ぇんだよォオ!」
言い合う二人の間に再び襲いくる巨大刃。
ソカロがいては大人しく会話をする暇もない。