第82章 誰が為に鐘は鳴る
(何処だ?消えたっ?)
リーバーに焦りが生まれる。
ラビは元帥であるソカロと対峙していたはず。
その最中に何か起こったのか。
高い天井でぶらぶらと揺れているのは、シャンデリアが繋がれていたであろう千切られた鎖だけだ。
周りは嵐のような状態に、シャンデリアが壊されてもそう簡単には気付けなかっただろう。
「くそッ…ラビ!おい!」
それでも自分への歯痒さは募る。
舌打ちを漏らしながら辺りを呼び掛けるリーバーに、応える声はない。
「今は、ぞれよりこの状況をどうにかするのが先だ…!」
「ガァアア!」
「ッんなこと言ったって…!俺は武道派じゃねぇんだよ!」
「銃があるだろ!」
「使える訳ないだろ、同じこと言わせるな!」
クロウリーに組み敷かれたまま、互いに焦りで罵声が酷くなる。
目の前の吸血鬼の毒牙に掛かるのも時間の問題のように思えた。
ふっと、視界に影が差したのはその時。
「? なん───」
外でもないのに更に暗さを増す室内。
何事かと、罵声を止めたリーバーが見上げた先。
牙を向くクロウリー越しに見えたのは、煌びやかな装飾を鏤めた照明。
「な…ッ!?」
探していた、あのシャンデリアだった。
「ひゃっはァー!!!」
荒れ狂う嵐よりも響く狂喜の声。
目の前に迫るシャンデリアは、コムイが作り上げた初代愛機コムリンⅠにも迫る巨大さだった。
その鉄の塊を軽々と片手で抱え上げているのは、あのソカロではないか。
クロウリーに阻まれ逃げる暇もなく、軽々と放り投げられたシャンデリアはリーバー達の下へと激突した。
硝子が割れ響く。
劈くような響きに、嵐に気を取られていたゾンビ達も目を向ける。
其処にはソカロの手により床に激突し大破したシャンデリアの残骸があった。
「ぅ…」
パラパラと顔に掛かる小さな硝子の破片。
痛みに思わず顔を顰めるリーバー。
「…?」
しかしいつまで経っても、体に痛みは襲ってこない。
恐る恐る、反射的に瞑っていた目を開ける。
「ハァ…大丈夫、さ?」
「…ラビ?」
見えたのは、鮮やか過ぎる程に明るい赤毛。