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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「だから博打みたいな賭けを、クロウリーの体ではできない。どうにかこの風が少しでも弱まれば…」

「ぞんな物で血を採取じようとするのも、博打とは言わないのが」

「クロスボウで射るくらいなら、軽傷で済む」

「…随分ど腕に自信があるんだな」

「ないとやらない」



迷い無く告げるところ、リーバーの性格も知ったからこそ、それは自慢などではない、ただただ彼の本心なのだろう。
亡霊の少女はリーバーの返答に口を閉じると、じっと考え込むように沈黙を作った。



「…わがった」

「?」

「機会は一度だけだ」

「なんのことだ?」



やがて口を開いた時、少女の決意は固まっていた。



「ごの風は止められなぐても、あの男の動きなら止められる」

「! そ、それは本当かっ?」

「ただし一瞬だけだ。ぞれにこの強風だ、やるにしても距離が心許無い。…惹き付けるのはお前の役目だぞ」

「っ…わかった。やり方はお前に任せる!」



びゅうびゅうと吹き付ける強風。
風で声は掻き消されてしまう為、呼び掛け惹き付けることはできない。
しかし何が一番クロウリーの注意を引くのに適しているのか、リーバーは知っていた。



「ッ」



片方の手首を口元に寄せると、強く歯を突き立てる。
肌を裂く勢いで噛み付けば、薄い手首の皮膚は簡単に破れた。
滴る鮮血が風に乗って宙を舞う。
仲間の怪我は躊躇するが、自分の血を流すことに躊躇のないリーバーの姿に少女は目を見張った。



「さぁ来い、クロウリー。"餌"は此処にいるぞ」



野生の獣のような凶暴性と身体能力を備えたクロウリーならば、他人の血を嗅ぎ取ることなど容易いだろう。
そして彼の正体は"吸血鬼"である。



「グルル…!」



新鮮な獲物の血を嗅ぎ取ったクロウリーの鋭い眼孔が、即座にリーバーへと向いた。
壁に蜘蛛のように張り付いたまま、鋭い牙を剥き出しに唸る。
コムビタンDの影響か、蝙蝠のような巨大な翼を背中に抱えた姿は異様だ。

ぐぐ、とクロウリーの背中が丸く縮まる。



(来る!)



ぞわりとリーバーの背に悪寒が走った、瞬間にそれは起きた。
まるでネコ科の動物が飛躍するように、壁から一直線にクロウリーが飛び掛かったのだ。



「ガァアア!」



他のゾンビ化人間より遥かに巨大な牙が、リーバーへと襲い掛かった。

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