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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「くッ…」



ラビのお陰でソカロの脅威からは脱することができた。
しかし荒れ狂う嵐のような風は止まず、リーバーはその場に真っ直ぐ立つことも儘ならない状況に苦虫を噛む。



「グルルル…」



強風の中で、廊下から這い出て壁に張り付き獲物を探すかのように鋭い眼光を巡らせているクロウリー。
襲って来ない姿は、絶好のチャンスだ。
しかしクロスボウを片手に、リーバーは堪らず舌打ちをした。



「クソッ…目の前にいるってのに…!」



目的のものは、手を伸ばせば届きそうな程。
しかしクロスボウを構えることさえ難しいこの場で、狙いを定めることなどできやしない。
野生の獣のようなクロウリーに、同じ作戦は二度は通用しないだろう。
チャンスは一度きりだ。



「早ぐやれ…ッ逃げてじまうぞ!」

「わかってる!だがもし照準が少しでもずれたら、クロウリーに大きな怪我をさせてしまうかもしれないだろ…ッ」

「怪我ぐらいなんだ!そんなものが怖いのかッ」

「っああ、怖いさ」



腹部で喝を飛ばす少女の言い分はわかる。
しかしリーバーは苦い顔をしたまま、唇を噛み締め否定はしなかった。



「仲間が傷付くんだ、怖いに決まってんだろ!それが度胸ってんなら、俺には度胸なんてないッ」



肝心な時に足が竦んでしまう。
そんな思いは、何度もしたことがある。
今行かなければと、頭ではわかっているのに踏み出せない。
そうして南へと歩み寄るのも、幾分時間が掛かった。

コムイやジジは、そんなリーバーの生真面目さが長所で短所だと言った。
今でもその意味は半分程しかわからない。
しかし結局、自分はこうなのだ。
ラビのようになりたいとは思うが、彼になれる訳ではない。
そうしてこの死と隣合わせの職場で生きてきた、リーバーにはリーバーの道がある。



「あいつらはエクソシストだが、元は俺達と同じ人間だ。戦闘員だからって、体が丈夫だからって、傷付けて良い理由になんてならない。それはお前も同じだろ」

「…何、言っでるんだ」

「言葉の通りさ。お前も俺も、クロウリーも。元を正せば一人の人間だ」



綺麗事だと言われようが、それがリーバーの教団(ここ)で持ち得た意志だ。
そうして歩んできたからこそ、慕ってくれる部下も信頼し合える仲間も持つことができたのだから。

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