第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ジ・エンドだ!」
「ッ!」
振り被ったイノセンスの刃が、リーバーに隙を与えず振り下ろされる。
脳天から真っ直ぐ貫かれる衝撃に、反射的に目を瞑った。
ガキィンッ!
しかし構えたリーバーに死は襲ってこなかった。
脳天に響いたのは、鋭い鉄が衝突し合うような音。
思わず開いた視界のすぐ目の前に迫っていたのは、ソカロのイノセンス。
しかしリーバーへと牙を剥く手前で、それは阻止されていた。
遥か高みから、一直線に伸びている一本の棒によって。
(これは…)
見覚えのある金属のような棒。
しかしその性質は金属とは異なる。
ラビの適正イノセンスから生み出されたものだ。
「へっ獲物を見間違えんじゃねぇさ。あんたの相手はオレだっての」
見上げたリーバーとソカロの目に、荒れ狂う龍の中心に立つ小さな小さな人影が見えた。
「殺んなら相手になるさ!」
「ば…っやめろラビ!」
シャンデリアの上から挑発するラビに、ソカロが狙いを変えるのは一秒とも掛からなかった。
床に突き立てられた鉄槌に足を掛けると、凄まじい飛躍力で跳び上がる。
リナリーのように飛行タイプのイノセンスは持ち合わせていないが、これでは瞬く間にラビの下へと辿り着いてしまうだろう。
「南の言葉を忘れたのか!自分を一番に考えろ!」
「考えてるさ!目の前ではんちょが殺られんのは、オレの気分が悪ィんだよ!いーからそっちはそっちの仕事をやれ!」
「っあいつ…!」
口ではそう言いながらも、リーバーを救う為に手を出したのだろう。
小さなエクソシストを見上げて、リーバーは歯を食い縛った。
ここでソカロを追うのは適切ではない。
今自分が何をすべきかは心得ている。
「くそ…っ絶対にやられるなよ!南が泣くぞ!」
「へ…っわかってらぁ」
がしゃん、と派手な音を立ててシャンデリアが大きく揺れる。
瞬く間に上り詰めたソカロの手が、ラビの足場を掴んだ。
「随分味気なさそうな獲物だなァ」
「人を見掛けで判断すっと、痛い目見るぜ?」
「フン。そうでなくちゃあ面白くねェ」
鉄槌の柄を退き戻し尚も挑発するラビに、ソカロの口が歪み笑う。
「言葉通り楽しませてくれよォ!」
腕力だけで飛び上がった体が、ラビの目前へと迫った。