第82章 誰が為に鐘は鳴る

「しっかし、クロウリーの姿は見当たらないな…」

「ごれだけ騒いでいれば、必ず現れる。時間の問題だろう」

「だといいが───」



ガァンッ！



ぼやくリーバーの言葉を遮ったのは、突如背後で響く衝撃だった。
リーバーの体に走った衝撃ではなく、地面に叩き付けるような地響き。
所謂誰かがその場に着地を試みたような。
しかし到底人が足を踏むような音ではない。

が、それは確かにとある者の足音だった。



「獲物見ぃい〜っけぇ♪」

「…！」



ぞわりとリーバーの背筋を駆ける寒気。
背後でクツクツと笑う低くも殺気立った声は、聞き覚えがあった。
荒ぶる吸血鬼と化したクロウリーよりも、もっと重圧のある気配と耳障りな声。

恐る恐る、相手を刺激しないように振り返ったリーバーの目に映った者。



「まだ餌がこんな所に残ってたとはなァア！」

「マジかよ…！」



巨大な両付き刃のイノセンスを振り回す、元帥が一人。
狂人ウィンターズ・ソカロだった。



「なんで一番来て欲しくない人が来るんだ全く…！」

「っ逃げろ！ゴイツはわだじの手にも負えない…！」

「そんなこと言われなくてもわかっ」

「ひゃっはぁー！！！」

「「！」」



相手は一秒足りとも待つ気はないらしい。
目の前のリーバーなどお構いなしに、ソカロは頭上で振り回していたイノセンスを地面へと叩き付けた。
巨大な刃はリーバーに刺さることはなかったが、衝撃波だけでも充分に手傷を負うもの。
一人と一霊は、荒れ狂う自然の龍が舞う広場へと簡単に弾き出されてしまった。



「ぐっ…！く、そ」



地面に体を強打しながらも、痛みに構っている暇などない。
なんとか近くの柱を掴み地に足を付けるリーバーに、龍達はラビが創り出した技故か牙を向いてくることはなかった。
しかし立っているだけでも精一杯のこの場で、危機が去った訳ではなく。



「逃さねぇぜぇえ！子猫ちゃんよォ！」

「っ…前から思ってたんだが…ソカロ元帥って、小動物好きだよな…」



つい現実逃避したくなる程に、迫る狂人にリーバーは堪らず呟いた。
自分はどう見たってそんな類の動物に例えられる外見はしていない。