第82章 誰が為に鐘は鳴る
びゅうびゅうと轟音を上げて教団内を駆け回る嵐に、ラビの竜巻は水を得た魚のように巨大化した。
木判は自然現象に特化した技。
天災が味方となれば、ラビ一人でも強大な力を生み出すことができる。
「来れるもんなら此処まで来てみろってんさ…!ダンスの相手ならいつでもしてやっからよ!」
高々と宣言するラビの姿でさえも、台風の目となり周りからは捉えることもできない。
正に轟く嵐の宴のようだった。
「………あいつ、教団壊さねぇかな…」
「…壊れだらコムイ室長が泣ぐぞ…」
「その前に俺が泣く」
広場入口近くの柱の隅で避難していたリーバーと亡霊は、目の前の光景に唖然と溜息を零した。
数十メートル先の巨大な空間では、風と雨と雷を纏った数十匹の龍が暴れ回り、ゾンビ達を宙へと放り上げては地に落としている。
この光景は果たして喜ぶべきものだろうか、と。
(此処に南がいなくてよかった)
教団の建物や道具の修理・改善は、専門の業者を呼ぶこともあるができることはほとんど内部の人間で行っている。
力仕事はファインダーに任すことも多いが、誰よりも物を作ることに長けているのは科学班である。
故に彼らが大工張りの仕事に狩り出されることも多い。
十中八九、この場に南がいたなら絶望に瀕した顔で頭を抱えていただろう。
何かを成す為には、何かを犠牲にすべきとはよく言ったものだと、リーバーは続く溜息を呑み込んで頷いた。