第82章 誰が為に鐘は鳴る
風を纏った竜が地面へと牙を剥く。
最下層にぶつかると、床を徘徊していたゾンビ達をまるで人形のように巻き上げた。
「ギャァアウア!?!!」
「ガルァアア!!!」
悲鳴とも唸り声ともわかり兼ねる音で、ゾンビ達が一斉に雄叫びを上げる。
それでもラビが止まることはなかった。
「致命傷にはしねーから、勘弁、さッ!」
一振り、二振り。
シャンデリアの上から落ちてくる幾つもの竜巻。
流石に下ばかり向いていたゾンビ達の目が一斉に上を向く。
探し求めていた獲物を見つけたのだろう。
竜巻に体を跳ね上げられ地面へと落ちたゾンビ達がダウンする中、その竜巻を掻い潜る者達がいた。
「やっぱり来やがったな…ッ」
真白な頭はよく目立つ。
左腕のイノセンスを発動させたままという厄介な姿で、道化ノ帯(クラウンベルト)を使いこなし階段も使わず上がってきたのは、イノセンス仲間のアレンだった。
彼だけではない。
同様にイノセンスを発動させたティエドールやクラウド達の姿も、竜巻に呑まれず上がってくる様が確認できた。
獲物を求め這い上がる様は、最早ゾンビを超えた恐怖の屍だ。
「悪ィな、アレン達にゃ手加減してる余裕はねーさ」
子供の体でどこまで太刀打ちできるのかさえもわからない。
元帥格のエクソシスト複数相手など、到底自殺行為だろう。
彼らが此処へと辿り着くことだけは阻止したい。
ラビは真上に振り上げていた鉄槌を広げた手の腹に乗せると、頭上で器用に回転させ始めた。
「風よ、雨よ、この際雷でもいいさ。ちっとばかしオレに力を貸してくれ」
回転を速める鉄槌の中心から、とぐろを巻いた風の竜が躍り出る。
竜は這い上がってくるアレン達へと牙を剥くことなく、強い爆風となりラビを中心に四方へと飛び散った。
ガシャンッ…!
爆風が吹き飛ばしたのは、壁全体に設置されている大きな窓硝子だった。
忽ち破られた硝子の中を掻い潜り、殴り込む勢いで飛び込んできたのはラビが呼んだもの達。
風に雨に雷の閃光。
それは外で傍若無人に暴れ回っていた嵐そのものだった。