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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



「うひゃー…圧巻。思ってた以上にゾンビがいたさ」



するすると引き上げた鉄槌を手に、眼下を見下ろせば隻眼に映り込む大量のゾンビ達。
廊下から見ていただけではわからなかった全貌が見えてくる。
目立つ白髪はアレンだろう。
その傍らによく見かけていたティムキャンピーの姿はない。
南の話によれば、自分の身を囮にして南の手助けをしてくれたらしい、とのこと。
勇敢で力強いあの特殊ゴーレムは、果たして無事なのだろうか。



(って、悠長に観察してる場合じゃねぇさ。リーバーはんちょが見つかる前におっ始めねぇと)



遥か下の第一広場。
そして上層へと上ってきた螺旋状の上階にも、ちらほらとゾンビの姿は見える。
ここで失敗してしまえば、明らかに逃げ場はない。

一瞬、頭に過ったのはいつも送り出す際に笑顔を向けてくれていた南の姿。
本当は、ずっともっと不安だったろうに。
先程見送ってくれた時の本音が、明らかな証拠だ。
本当は、あんな不安を毎度抱えていたはずだろうに。

それでも送り出す時も、迎え入れる時も、常に笑顔をくれた。
心底ラビが安心できる、ほっとするような笑顔だ。



(───あそこに帰らねぇと)



自分が目指す場所は、他ならぬ彼女の下だ。



「っし」



小さく喝を吐いて、ラビは両手で柄を持ち突き出した鉄槌をくるりと回転させた。



「木判」



ぼう、と暗闇に僅かに灯る判の光。
ラビの槌の丸い側面に"木"の字が浮かび上がった。



「"天地盤回"」



淡い光が徐々に強さを増す。
それでもゾンビ達が上層の気配に気付くことはない。
巨大化させた鉄槌を片手に、ラビは大きく真上へと木判を持ち上げた。

生身の人間に直接的な攻撃はできない。
しかし中途半端な威嚇ではこちらがやられてしまう。
相手を翻弄できるだけの力で、しかし命は取ることなく出来ることと言えば。



「さーて、パーティの時間さ」



ニ、とラビの口元が弧を描く。



「一人残らず強制参加な!」



そうして持ち上げていた鉄槌を、ぶぉんっと振り被った。
風を切る音と同時に、振った槌から発生する強い風。
それは突風となり一直線に最下層へと舞い落ちた。

まるで意志を持った、とぐろを畦らす竜の如く。

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