第82章 誰が為に鐘は鳴る
「お前さ、コムイを助けたいんだろ?じゃあこの状況が収束したら成仏すんの?」
「ああ…私がごの世にいでも、室長に迷惑をかけるだけだ…」
「ふぅん。なんさよく知らねぇけど、心は洗われたんさな」
多少恐々とだが、興味を持った目で亡霊を見つめるラビ。
流石ブックマンの弟子と言おうか。
探求心はこの世のものでない者にまで向くらしい。
「でもさ、話に聞くと幾つもの霊媒体が集まってお前なんだろ?皆の意志なんさ?それ」
「……ああ、ぞうだ」
「なんさその間。迷いでもあんの?」
「…ぞういう訳じゃない…ただ───」
「おい、二人共」
ラビと亡霊のやり取りを止めたのは、先頭を歩いていたリーバー。
「着いたぞ」
その目は眉を潜め、前方を見据えていた。
「グルルル…」
「…ハァアア…」
リーバー達が足を止めた廊下の数十メートル先。
其処は広い空間と相成っていた。
黒の教団の第一広場。
団員達が最も行き交う大きな広間は、昼間と変わらない人の多さで賑わっていた。
ただし全員が全員、涎を垂らし唸り声を漏らし、徘徊するように彷徨う姿でだが。
「やっぱりいたな…」
「ざっと見、二、三十人ってところさ。これが全員一般人ならやり易いけど…」
「エグゾジズトもいる」
亡霊の言葉に、リーバーとラビは顔を顰めた。
大方はち合わせる羽目にはなるだろうと思っていたが、アレンやミランダ達に混じり、元帥格であるクラウドやティエドールの姿までも見えた。
「やれるか、ラビ」
「やんなきゃなんねーだろ、どうせ」
いつもは腿に巻いている鉄槌のホルスターベルトを腰に巻いた姿で、ラビは苦い笑みを浮かべる。
やらないという選択肢はない。
やらねば殺られるだけだ。