第82章 誰が為に鐘は鳴る
「約束して下さい。二人共、ちゃんと生きて戻ってくるって。…じゃないと私…」
最後の言葉は形と成らずに消える。
縋れるものなどそこにしかないのだろう。
切実な呼び声で頭を下げる南に、リーバーとラビは互いの顔を見合わせた。
沈黙は一瞬。
視線を交えただけで充分だった。
「オレが今まで南に"ただいま"を言わなかったことあるさ?今回もきっちりケリつけて戻って来るから、ちゃんと熱いハグくれよな」
「そうだな。じゃ俺にもそれ頼む」
再び南へと目を向けたかと思えば、砕けた笑顔を浮かべる二人。
「えっは、ハグ?」
「あーっ便乗すんなよはんちょ」
「いいだろ別に、減るもんじゃないし。てことで行ってくるな、南」
「ちょっと待っ」
「人気はないな、よし。ラビ、鉄槌忘れるなよ」
「わかってんさ。南、最悪の時ははんちょが銃声3発鳴らすから、それまでは此処出るなよ?」
「それはわかってるけど…って待って二人と」
「じゃーなっ行ってくるさ」
「しっかり戸締りしとけよ」
まるで買い物にでも行くような雰囲気で、バリケードとして固めていたドアから出ていく二人。
背を向け片手を振る二人に、伸ばした南の手は届かなかった。
ガチャリとしっかりドアは閉じられ、シンと静寂に包まれる。
「…待ってって…言ったのに…」
片手を伸ばした姿勢のまま、南は大きく溜息をついた。
(絶対わざとだ)
恐らく南に不安な思いを感じさせない為に。
普段の空気で出ていったのだろう、そんな二人の思いが伝わったから。
「…もう」
一人見送る南の表情(かお)に、もう暗い色は差し込んでいなかった。
「───でもあれは駄目だ」
が、しかし。
ぷしゅうと顔から湯気を出しながら両手で顔面を覆う南は、その耳まで真っ赤に染め上げていた。
(一睡もできなかった…!)
想い想われ恋香る。
二人に挟まれ赤裸々な想いを耳に熟睡など、流石の南にも無理だったらしい。