第82章 誰が為に鐘は鳴る
「ま、南を見てる奴は他にもいるしなー…アレンとかユウとかクロス元帥とか。はんちょ以外にも安心できない奴はごろごろいるさ」
「そうか?」
「そーさ。はんちょは心配なんねぇの?」
「そう言われれば心配はするが…」
深い溜息と共にぼやくラビに、科学班の飲み会でやけにクロスに絡まれていた南を思い出せば眉間に皺は寄る。
しかしリーバーの中で一にも二にも気に掛かるのは、この目の前の小さな少年だった。
「俺は、お前が一番だと思うけどな」
「は?」
「エクソシストの中で、南が素の顔で笑ってるのはいつもラビの隣だった。俺が心配になるなら、それはお前相手だ」
「そ…だっけ?」
「自覚がないから余計性質が悪い」
それだけ、南はラビに心を開いているのだということ。
唯一の抗生剤をラビに使ってしまうだけ、心を向けているのだということ。
それがどんなに大きなことなのか、当の本人は気付いていないらしい。
(本当に、隣の芝は青く見えるってやつだな)
リーバーが持ち得ていないものを持っているからこそ、南をその力で魅了できるのはラビだけなのだ。
元旦に、リーバーが羨ましいと無いもの強請りをしていたラビの気持ちがよくわかった。
「大体…(…"答えを出すから"って…そんな返答を貰ってる時点で、生半可じゃない思いを向けられてることに気付かないもんなのか。ラビの癖して)」
頭の回転は良い彼のこと、少し考えたら解るだろうに。
興味のない男ならば、相手を思いやる南のことだ。
変に引き延ばしたりせず、きっぱり断るだろう。
それを待っていて欲しいと伝えたのは、彼女の中にラビへの想いが確かに在ったからなのかもしれない。
「大体?ってなんさ」
「…いや。これ以上言う義理はないな」
それをこれ以上ラビに親切に教えてやる気はなかった。
にっこりとラビの言葉を真似て笑うリーバーに、幼い隻眼がむすりとしたものに変わる。
「なんさそれ喧嘩売ってんの?」
「いや?」
「………」
再び、ぴりりと張り詰める空気。
「………ん、ぅ…」
「「───!」」
それを止めたのは、僅かに身動ぐ南の気配だった。