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科学班の恋【D.Gray-man】

第82章 誰が為に鐘は鳴る



あの時は、初めて互いに南への想いを明確にして言葉を交わした。
言葉というよりも、宣戦布告のような挨拶だ。
それでもラビのことを好敵手と認め、負ける気はないと改めて自身の想いを再確認させられた。
リーバーにとって、そしてラビにとっても大きな一歩だっただろう。



「…ラビ」

「今度はなんさ。あんま喋ると南が…」

「お前にひとつ、報告しておきたいことがあって」

「報告?」



されるようなものなどあっただろうか。
不思議そうに首を傾げる小さな頭を見下ろして、リーバーは控えめに落としていた声のボリュームを更に下げた。






「南に俺の想いを告げた」






小さな声で告げられたのは、一文のみ。
しかし幼い隻眼を見開かせるには充分な言葉だった。



「───っ!?」



一瞬表情を固まらせたラビが、咄嗟に行ったのは自分の口を自分の手で塞ぐ行為。
両手で己の口を押さえ込み、何をしようとしているのか。
それは彼の表情を見ればリーバーには理解できた。



(な…ん、な…っ!な、に言ってんさ…!それ今言うか!?フツー!此処で!今!)



と、罵りたいのであろう、ラビの憤慨する顔にリーバーは苦笑一つ。



「お前だって俺と同じだからな。一応、伝えておこうかと」

「っ…!(だからって今言うことかよ…!)」

「そう睨むなよ、悪いとは思ってる。…でも今を逃したら次はない気がして」

「は、…ざけんなよ」



やがて外れた両手に、零れたものは不快感を表す声色。



(ずりぃさ、んな正々堂々みたいな態度取られたら…何もできなくなんだろ)



本気具合は疑問が浮かぶが、数多の女性と恋愛感情は向け合ってきたラビ。
恋は所謂博打。
駆け引きのようなものだ。
姑息な手だって時には使う。
相手への譲歩や同情や誇りなど考えていたら、易々と奪われてしまうのだから。

隙など見せてはならない。
ましてや自分と同じ想いを持った男に与えるなど。
本気で好きになった女性だからこそ、ブックマンという立場を持ってしても渡したくないと思った。

しかし。



「…ちくしょ」



そんなに真っ直ぐに向き合われると、下手なことはできなくなる訳で。
ラビの口から零れ落ちたのは、諦めに似た溜息だった。

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